月5万円リーズナブルな学費
それでも経済的理由で退学者が

 この学校があるから荻窪に引っ越してきた、杉並区やJR中央線沿線でカレー屋を開いたというネパール人は多い。地域の「インネパ(ネパール人経営のインドカレー屋)」拡大にも大きな役割を果たしていると言えそうだ。2009年に488人だった杉並区在住のネパール人はEISJ開校を機に増え続け、2019年には2000人を突破。コロナ禍のためやや減少したが、2022年1月時点で1928人となっている。杉並区では中国、韓国に次ぐ一大勢力だ。

 しかし、EISJの学費は月5万円なのである。ほかに通学バスの費用が1万円かかる。一般的なインターナショナルスクールよりだいぶリーズナブルではあるのだが、それでも薄給に喘ぐコックや、経営が軌道に乗らず難儀している店主も多い業界だ。学費が払えず、やむなく公立の学校に通わせている親のほうが多い。この学校で子供を学ばせることができる時点で、カレー屋としてはうまくいっているほうなのだろう。

 近年では充実した英語教育や、ネパール人だけでなくインド人なども学ぶ多国籍さを魅力に感じて子供を通わせたいという日本人の親も増えるなど、メディアでも「エリート校」という取り上げ方をされることも多いが、実情はなかなかにたいへんだ。

「英語はみんなよく身につくのですが、日本で生まれたネパール人の子供はネパール語が難しいと壁に当たることもありますね」

 藤尾さんは話す。ここでも国の狭間で苦しむ子供たちがいる。それに学費の滞納が続き、やむなく退学していく子もいるという。コロナ禍で店を閉め帰国していった一家もいるそうだ。また10代の子供ではありがちなのかもしれないが、喫煙や万引で補導されたり、公共バスの中で大騒ぎして学校にクレームが入ったりもする。手のかかる生徒たちに目を光らせるべく、先生たちが朝に夕に駅前に立つ。一方で、差別的な電話がしつこくかかってきたりもする。

 いろいろなことはあるのだが「プライドを持ってほしい」と藤尾さんは力説する。

「EISJの子はやっぱりすごいな、この国でがんばっているネパール人の生徒なんだなって日本人にも思われるようになってほしいんです」

 そのためには卒業後も見据えた明確な目的意識と学びが必要なのだが、学校としてそこがやや欠けているようにも見えるという。観光と農業以外のこれといった産業を生み出せず海外出稼ぎ頼みになってしまっている母国の現状と重なって見えるのだと、藤尾さんは憂いている。

 英語の簡単な試験で入学できるから学力にばらつきがあり、全体として底上げしていくことも必要だ。