不法滞在の外国人による犯罪や、入国管理の現場における処遇トラブルは、連日メディアを賑わせている。日本人はこれをもって「移民は怖い」との印象を持ちがちだが、国内での人手不足に悩む日本企業にとって、外国人労働者はもはや手放せない存在だ。「不正な定住者」を生んでしまう「移民NG」の建前にこそ、メスを入れる必要がある。※本稿は、岸本義之『グローバル メガトレンド10 社会課題にビジネスチャンスを探る105の視点』(BOW&PARTNERS)の一部を抜粋・編集したものです。
先進国の企業には歓迎されるが
移民は元の住民の「仕事を奪う」
「移民」とは経済的な理由で海外へ移動する人のことで、「難民」とは母国にいると政治的な迫害を受ける可能性があるので海外へ移動しようとする人のことです。先進国と新興国の間に所得格差が続く限り、新興国の人々は、より高い所得を得ようとして、先進国に行こうとします。
移民の行先として最も顕著なのがアメリカです。中南米からの移民によって、アメリカ国内にヒスパニック系(中南米のスペイン・ポルトガル語圏出身)住民が増加しています。次に顕著なのは、中東やアフリカからヨーロッパへの移民で、これによって、ヨーロッパ内にイスラム系住民が増加しています。他には、インドや東南アジアから中東の産油国への移民、中国や韓国からアメリカへの移民、中国や東南アジアからオーストラリア、ニュージーランドへの移民などが多くいます。これらの移民の特徴は、単純労働(工場や建設、店員など)が中心なことです。
先進国側は単純労働者が不足していたので、むしろ移民の受け入れを進めてきました。先進国の住民は低収入の仕事を避けて、高収入の仕事を選り好みしますし、全般的に給与水準が高くなっているので、低人件費の労働者を雇いたい企業側としては、移民で来てくれる労働者はありがたい存在です。
しかし、先進国の文化に移民が同化してきたわけではありませんでした。先進国内で失業者が増えてくると、失業者たちは「自分の仕事を奪ったのは移民たちだ」という被害者意識を持つようになります。
ヒスパニックvs.アジア
新旧移民も対立関係に
また、アジア系の移民は一般的に高学歴志向(儒教の影響があるせいか、親が経済的に困窮していても、子供にはいい教育を受けさせたいという文化があります)なので、有名大学に合格する率も高くなっています。アメリカの大学は人種差別をなくす意図で、一定割合の少数民族の受け入れ枠を設定していましたから、その枠にアジア系の移民の子供たちが入ることができるのです。そうなると、少数民族間でも対立が起きます。中南米系の移民が「自分の仕事を奪ったのはアジア系移民たちだ」と被害者意識を持つのです。