「病気になりたくない」というのは、すべての人に共通する願いです。しかし、病気にならないためにどんな行動をとるべきなのかは「よくわからない…」という方が多いのではないでしょうか。
そんななか、「科学的に正しい」健康習慣の身につけ方を明かした、公衆衛生学者・林英恵さんの最新刊『健康になる技術 大全』が話題を呼んでいます。最先端のエビデンスをベースにした「健康に長生きする方法」を伝授する本書に、読者からは「健康関連本としてはブッチギリのベスト」「一家に1冊置いておくべき」と激推しの声が続々と届いています。
本稿では、本書より一部を抜粋・編集して、オーガニック食品と健康の関係についてご紹介します。(初出:2023年8月5日)
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
*書籍『健康になる技術 大全』の「食事の章」はケンブリッジ大学疫学ユニット上級研究員 今村文昭博士による監修

【公衆衛生学者が教える】「オーガニック食品」は本当に体に良い? その意外な答えとは【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

オーガニック食品は本当に体に良い?

 最近、都市部の自然食料品店だけでなく、道の駅や通常のスーパーマーケットでもオーガニックのコーナーを見かけます。実際、オーガニック食品市場は全体的に右肩上がりです。農林水産省によると、国内のオーガニック食品市場規模は推計1850億円で、2009年の推計金額である1300億円よりも、42%拡大しています。

 しかし、オーガニック食品と普通のもの、どちらが良いのかに関して、まだ長期にわたる質の高いエビデンスは出ていません(*1-3)。これだけ市場が大きくなっているのになぜ? と思われるかもしれません。この理由は、食品の研究の難しさにあります(*1)。

 例えば、オーガニック食品に興味がある人は、健康に関心があり、すでに健康的な生活を送っていることが考えられます(*1)。そのような中、オーガニック食品の健康への影響を長期にわたって調べるのは、とてもハードルが高くなります。仮に彼らがより健康だとしても、オーガニック食品のおかげなのか、健康的な生活に伴う別の多くの事柄のおかげなのかわからないからです。

 今回は、少しでもみなさんの食品選びの判断基準の材料になるように、現時点で出ているエビデンスを整理してみたいと思います。

オーガニック食品と健康の関係

 特に生鮮食料品に関する様々な研究結果から、オーガニック食品に関しては、大きく分けて3つのポイントがあると考えられます(*3)。1つ目は、残留農薬など自然界にはない物質が食品中に残存しているかどうか、あるとすれば健康への影響です。2つ目は、農薬や抗生物質、遺伝子組み換え技術を制限することによる、バクテリアなどの発生とその健康への影響。3つ目は、オーガニック食品の栄養価がプラスかどうかです。

 まず、1つ目に関してですが、アメリカの内科学会の学会誌上では、複数の研究をまとめた結果として、オーガニックの食品は、オーガニックでないものに比べて、残留農薬や重金属がより少なく検出されていると報告されました(*3,4)。しかし、こうした成分の量が、長期的に見て健康にどのくらい影響があるものか、明確な答えは出せません(*2-5)。安全基準の厳格さなども鑑みて、現時点では通常の成人にとっては健康に影響があるレベルではないと考えられています(*3)。

 2つ目のポイントである、農薬を使用しないことで発生するマイナスの影響についてはどうでしょうか。肉類以外のものに関しては、バクテリアなどの汚染の程度には差が見られませんでした(*3)。しかし、オーガニックの肉類からは、大腸菌やカンピロバクターと呼ばれる細菌が発見されています(*3)。

 その一方で、抗生物質を使うこと(非オーガニック)で耐性菌を持った家畜ができてしまうというデータが出てきています(*6)。総合的に、私たちの健康への影響はまだわかりませんが、特定の物質について懸念が生じているのは確かなようです(*4,5)。

 3つ目のポイントは栄養価についてです。2012年の代表的な論文では、基本的にオーガニック食品の方が特に栄養価が優れているということはないと結論が導かれています(*3)。

自分の優先順位で決める

 このように、現段階でオーガニック食品の方が健康に良いという強固なエビデンスはありません。このような状況の中で、どのように食品を選べば良いのでしょうか?

 私の場合、第一子を妊娠・出産後から授乳中は、自分が口にするものに、以前にも増して気を使うようになりました。子どもが生まれた後は、子どもが食べるものが気になります。

 ですから例えば、皮や表皮を食べる玄米と野菜や果物は、皮や表皮には残留農薬が残りやすいために(*7)、できるだけオーガニックにしています。食品の安全性は制度上確保されているとはいえ、少しでも農薬の影響の可能性の少ないものを用意したいという思いからです。

 これは私の意見にすぎませんが、妊婦(妊娠を予定している人)、授乳中の人や乳幼児など、リスクの可能性が少しでも気になる人は、オーガニックの食品摂取を検討しても良いと思います。すべてのものをオーガニックにしなくても、値段や手に入りやすさに応じて、自分の生活における優先順位で決めたり、残留農薬が残りやすい食品についてはオーガニックにしたり、部分的に取り入れることもありだと思います。

 オーガニック食品の健康への影響については、ポジティブなものもネガティブなものも、エビデンスは限られているため、今後も研究とその成果を待つ必要があります。一方で、オーガニック食品は、様々な農業の製法や各地の生産者の思いなど、食の奥深い魅力に気づかせてくれるものでもあると思います。

 そういった意味で、オーガニック食品との付き合い方を、今一度考えてみるのも良い機会になるでしょう。

(本稿は、林英恵著『健康になる技術大全』より、一部を抜粋・編集したものです)