ふと、目指すべきトイレのドアを見つめていた目線を、自分の足元に落としました。そしてそのまま自分のつま先を見つめたまま、一歩……、もう一歩……と、少しずつ前に動かしてみました。すると不思議なことに足が動いたのです。

 そうやって一歩ずつ交互に足を出していったところ、いつしかトイレまでたどり着いていました。いつもなら2秒で行けるところを、その日は5分以上かかっていました。それでも無事に用を足すこともできたのだから、これはもう十分、合格と言っていいでしょう。

「なるほど。確かに、一歩ずつ、なのよねえ」

 遠くの目的地だけ見て歩くのではなく、今いるこの場所で、足元を見つめながら、まず一歩、踏み出してみる。これが始まりであり、すべてなのです。 そうやって一歩一歩と歩(ほ)を進めていけば、いつしか目的地に到達している自分に出会えるはず。

 さあ、どんな時でも、勇気を持って一歩踏み出してごらんなさい。私はトイレに行くまでに5分以上かかったけれど、到着した瞬間は何とも言えない達成感で思わず歓声を上げましたよ。あなたが誰であれ、どんな状況であれ、一歩踏み出せばきっと感じられるはず。「勇気を出して本当によかった」と。

(本原稿は『もし私が人生をやり直せたら』から一部抜粋、追加編集したものです)