程度の差こそあれ、この地域を回れば回るほど、名家としての評判が重なっていった。寺島の父親について話す住民もいた。

「春奈ちゃんのお父さんもおじいさんと同じく高校の教員でね、定年まで勤め上げたんですよ。お父さんは公立高校でしたけど。お父さんもおじいさん同様、地域のために汗をかいてくれる素晴らしい人です。おじいさんの教え子か、お父さんの教え子かはわかりませんが、若い方が寺島家に出入りしている姿を何回も見たことがありますよ」

 まさに「名士」として、そして「教育一家」として寺島家はこの地に根付き、周囲の信頼を得ていた。それならなおさら、寺島家から新聞を賑わす者が出たのは意外だったのでは、と意地の悪い質問をしてみた。

「それはびっくりしましたよ。同姓同名の似ている子が捕まったのかな、としか思っていなかったんですけど、地元の新聞記者さんが訪ねてきて、娘さんだと聞かされた時には声が出ませんでした。小さいころしか知らないけど、元気よく挨拶してくれる本当にいい子でした。3人きょうだいだけど、みんないい子ですよ、あそこのお子さんたちは」

近隣住民が明かした
唯一の“異質”な証言

 寺島の実家周辺を回れば回るほど、ルフィとの関係が遠ざかっていくような感覚にとらわれた。住民が口にする「なぜ寺島さん家の子が闇バイトを……」という疑念と動揺は、よそ者の筆者にはわからない。

 慎重に周辺取材を続けていくと、幼少のころから寺島を知っているという、寺島と同じぐらいの年ごろの娘を持つ女性だった。女性は多くの近隣住民がそうであったように、寺島の両親に対し好い印象を抱いていることや、少なくとも幼少期の寺島が、名家の子女であったことを裏付ける証言をした。しかし「なにか悪い道に進むきっかけなど思い浮かびませんか?」と水を向けると、何かを思い出したような表情を見せたのち、ポツポツと語り始めた。

書影『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社)『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社)
週刊SPA!編集部特殊詐欺取材班 著

「春奈ちゃんが中学か高校の時です。遅い時間ですけど、自宅の2階のベランダでタバコを吸っていたんです。それも1度や2度じゃなく何度も。そりゃあ高校生ぐらいになれば背伸びする子もいますけど、寺島さんちの子に限ってはそんなことないと思っていたので、すごく驚いたのを覚えているんです。ご両親にそっと教えようと思ったこともありますけど、気が引けて……」

 どんなに「秘めたる話」かと前のめりになったが、正直、拍子抜けした。しかし「良家の話」ばかり聞かされていた筆者には、寺島が立体的になってきた。高校入学前後に何があったのかと――。