バブル世代が去る時、どでかい変革が起きる?日本のトラウマ克服に「世代交代」が必要なワケ『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第77回は、バブル世代、氷河期世代、アベノミクス世代それぞれの投資に対するスタンスを比較する。

トラウマ世代→氷河期世代→アベノミクス世代

 藤田家の次代を担う御曹司・慎司は、現当主である祖父に投資部の運用資産を本家に戻すよう求める。資産を減らさないことを優先してきた祖父の投資スタンスは古い世代の発想で、積極的な資金の活用で自分が日本の投資文化を変えてみせると豪語する。

「株価って、どう動く?」。こんな素朴な質問に、あなたはどんなイメージを浮かべるだろうか。実は株価や株式投資に対する認識は、世代によってかなりギャップがある。

 私より少し上、1980年代後半から1990年代前半に社会に出た世代では、バブル崩壊後の株価急落局面がトラウマのようになっていて、株式投資には半信半疑の気持ちが強い。対照的に、今の20代から30代前半の人たちは、リーマン・ショックが起きたのは未成年の頃で、アベノミクスの右肩上がり相場が株式市場に対する認識のベースになっている。

 トラウマ世代とアベノミクス世代に挟まれた30代後半から50代までは、グラデーションがある。いわゆる氷河期世代の私は今年で52歳になる。株価に対しては「上がったり下がったりしながら、長期では上がる」、株式投資には「長期では報われる可能性が高いけれど、タイミングが悪ければ高値掴みで苦しむ」というイメージを持っている。

 この世代間ギャップは先進国では日本特有のものだ。米国はもちろんのこと、英国やドイツ、フランスなど欧州の主要市場でも株価は超長期で右肩上がりとなっている。違いを生んだのは世界でも特異な「失われた30年」という低迷期だろう。低成長・低インフレ・低金利が経済と人々のマインドに根を下ろしてしまった。

天動説の人々は「改心」したのか?

漫画インベスターZ 9巻P139『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 欧米諸国では、物価は上がり続けるものであり、「企業の値段=株価」もインフレ率プラスアルファ上がって当然という発想が一般的だ。株式投資は長期でインフレに負けないため、購買力を維持するための手段と位置付けられる。

 日本もようやくデフレのノルム(社会規範)が緩んできた。その象徴だった日銀の異例の金融緩和も正常化に一歩を踏み出した。インフレに対抗するため、株式や不動産などにある程度投資しておいた方がリスクヘッジになるという考え方も少しずつ広がりつつある。

 とはいえ、私は本当の投資文化が根付くにはあと10年、20年といった時間が必要だろうと考えている。なぜなら、それは一種のパラダイムシフトだからだ。

 天動説から地動説へのコペルニクス的転換は、天動説を唱える人々が「改心」したから起きたのではない。天動説論者が世を去り、フラットな目で問題に向き合う世代が天動説より理にかなった地動説を支持するようになったから世界観の大転回が起きた。つまり、完全なパラダイムシフトには、世代交代が必要なのだ。

 あと20年たてば、バブル崩壊後の低迷期を知る世代から、「株価は長期で上がるもの」「株式投資は将来に備える当然の営み」と考える世代にバトンタッチが進む。無論、これはその間に新たなトラウマを生むような大波乱が起きなければ、という条件付きの楽観シナリオでしかないわけだが。

漫画インベスターZ 9巻P140『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 9巻P141『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク