【マンガ】日本はアメリカにボロ負けの周回遅れ?それでも「希望はある」と言い切れるワケ『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第66回は、日米の「ベンチャー格差」について考察する。

ケタ違いの日米格差

 投資部の合宿の後、OBのひとりが主人公・財前孝史を東京の「ベンチャー村」に連れ出す。財前は起業家と投資家をつなぐコミュニティがベンチャー投資の場になっているのを学び、先進国・米国との格差に思いを巡らせる。

 日本から革新的なベンチャーが生まれにくい理由のひとつは、作中で描かれるような「場」のスケールの欠如だ。

 よく知られるように、シリコンバレーには、アイデアをビジネスに育て上げるエコシステムが確立されている。ベンチャーキャピタリストは、お金を投資するだけでなく、事業を支えるスタッフやビジネスパートナーの紹介などを通じて「種」が育つプロセスを強力にバックアップする。投資家自身が元起業家あるいは現役の企業経営者であるケースも多く、経営の指南役にもなる。

 日本にもそんな「村」はある。ただ、米国は規模がけた違いだ。「村」の外からもマネーが流れ込み、エコシステム自体のスケールメリットが魅力となって世界から人材も集まる。米国は初等教育や医療、銃規制など社会の制度設計に多くの問題を抱えた国だが、ことベンチャー育成については理想的なシステムを作り上げている。

周回遅れの日本に希望はあるのか?

漫画インベスターZ 8巻P95『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 では周回遅れの日本には希望がないのかといえば、私は楽観的だ。そう遠くない将来に、日本でもベンチャー育成のエコシステムが急成長する可能性は十分ある。

 背景のひとつは新NISA(少額投資非課税制度)によって投資のすそ野が広がっていることだ。NISAマネーが直接、非上場株にお金が流れるわけではないが、投資マネー全体の塊が大きくなれば、新たなフロンティアを探る動きは活発になる。

 実際、最近になって、レオス・キャピタルワークスや三井住友トラスト・アセットマネジメントが非上場株も投資対象とする投資信託を設定すると報じられるなど、動きは出ている。こうした流れは今後加速していくだろう。

 作中でも指摘されるベンチャーの「出口」としてのM&Aの価値観の変化も大きい。ほんの四半世紀前までは、上場企業のM&Aといえば、経営難の企業の救済や、「対等の精神」で行う企業間結婚のような合併ばかりで、敵対的買収などは野蛮人のふるまいとみられていた。

 今やM&Aは、上場、非上場を問わず、当たり前の成長戦略となっている。上場まで手が届かなくても、起業家は創業者利益にあずかれるようになり、いわゆる連続起業家も生まれやすくなっている。

 もうひとつ、私が楽観的になれる要因は、意外に思われるかもしれないが、少子化だ。企業の獲得競争が激化し、新卒や20~30代の優秀な人材は強烈な売り手市場となっている。そして、この世代はもともと「転職アリ・起業アリ」の価値観を持っている。起業の失敗など多少の躓きがあっても、能力さえあれば、労働市場で再起できる環境は整っている。

 ひとたびある方向に動き出せば、流れは太くなる。日本はそういう社会だ。アイデアをもった人にお金と資源が行き渡り、起業家が社会の問題解決の担い手になる時代がくるだろうと、私は楽観的に考えている。

漫画インベスターZ 8巻P96『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 8巻P97『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク