ゴールドマン・サックスなど外資系金融で実績を上げたのち、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「日本一」と「収益拡大」を達成。現在は、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長にして、日本企業成長支援ファンド「PROSPER」の代表として活躍中の立花陽三さん。初の著作である『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)では、ビジネス現場での「成功」と「失敗」を赤裸々に明かしつつ、「リーダーシップの秘密」をあますことなく書いていただきました。リーダーだからといって「格好」をつけるのではなく、自分の「欠点」や「弱点」を素直に受け入れて、それをメンバーに助けてもらう。つまり、「リーダーは偉くない」と認識することが、「強いチーム」をつくる出発点だ――。そんな「立花流リーダーシップ」に触れると、きっと勇気が湧いてくるはずです。
組織のなかに「壁」は必然的に生まれる
楽天野球団の社長になって驚いたことがあります。
スーツ組(営業、広報、総務、会計などビジネス周りを担当する社員)とユニフォーム組(野球チームをマネジメントしたり、選手の採用・トレードなど担当するスカウト陣をはじめとする、野球チームをマネジメントする社員)の間に、ものすごく分厚い「壁」が存在していたのです。
もちろん、部門間の「壁」というものは、組織には避け難く起きる問題であって、僕自身、これまでさんざん経験してきたものです。だけど、当時の楽天野球団は、「壁」というよりも、「断絶」と呼んでもいいほどの状況でした。
楽天野球団事務所が入っている建物の2階にユニフォーム組が入り、3階にスーツ組が入っていたのですが、スーツ組が2階を訪れることすらできなかったのです。そして、それが球団経営に大きな弊害をもたらしていました。
なぜ、営業部が頭を下げなければならないのか?
選手のサインひとつもらうのもおおごとでした。
たとえば、楽天野球団に多額の出資をしてくださっているスポンサーさんから、ある選手のサインボールを頼まれたとします。
すると、依頼を受けた営業マンから上司である営業部長に伝達され、営業部長がチーム側の管理部長に依頼。管理部長からその選手のマネージャーに伝達され、そのマネージャーから選手にサインを書くように指示が出されます。サインひとつもらうために、これだけのフローを経なければならないのです。
これが、プロ野球の“ど素人”だった僕には不思議なことに思えました。
なぜなら、管理部長が首を縦に振らないと、営業部は、サインをはじめとするファンサービスを選手に依頼することすらできないからです。
球団収益を支えてくださっている大スポンサーの依頼を受けるかどうかは、管理部長の一存にかかっているわけで、営業部としては、管理部長に対して平身低頭して頼み込むしかありません。そこに、理不尽な「上下関係」が生じてしまっているように見えたのです。
1971年東京都生まれ。小学生時代からラグビーをはじめ、成蹊高校在学中に高等学校日本代表候補選手に選ばれる。慶應義塾大学入学後、慶應ラグビー部で“猛練習”の洗礼を浴びる。大学卒業後、約18年間にわたりアメリカの投資銀行業界に身を置く。新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。1999年に転職したゴールドマン・サックス証券で実績を上げ、マネージング・ディレクターになる。金融業界のみならず実業界にも人脈を広げる。特に、元ラグビー日本代表監督の故・宿澤広朗氏(三井住友銀行取締役専務執行役員)との親交を深める。その後、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に引き抜かれ、数十人の営業マンを統括するも、リーダーシップの難しさを痛感する。2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス社長に就任。託された使命は「優勝」と「黒字化」。星野仙一監督をサポートして、2013年に球団初のリーグ優勝、日本シリーズ制覇を達成。また、球団創設時に98万人、就任時に117万人だった観客動員数を182万人に、売上も93億円から146億円に伸ばした。2017年には楽天ヴィッセル神戸社長も兼務することとなり、2020年に天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会で優勝した。2021年に楽天グループの全役職を退任したのち、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の創業者・鎌田秀也氏から相談を受け、同社社長に就任。すでに、仙台店、東京銀座店などをオープンし、今後さらに、世界に挑戦すべく準備を進めている。また、Plan・Do・Seeの野田豊加代表取締役と日本企業成長支援ファンド「PROSPER」を創設して、地方から日本を熱くすることにチャレンジしている。著書に『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)がある。