「行動経済学」について理解を深めることは、様々なリスクから身を守るためにも、うまく目的を達成するためにも、非常に重要だ。『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』を推薦する、東京大学大学院経済学研究科教授の阿部誠氏は、著書『大学4年間の行動経済学が10時間でざっと学べる』などで最先端の知見をわかりやすく紹介している。私たちは仕事や日常生活に行動経済学をどう活かせばよいのだろうか? 阿部教授にお話しを伺った。

【東大教授が教える】「部下のやる気を奪う」リーダーと「パフォーマンスを高める」リーダーの違いPhoto:Adobe Stock

「仕事の意味」を感じれれないと生産性が下がる

部下のやる気をうまく引き出すために、上司はどうすればいいのでしょうか。

「仕事への意欲」について行動経済学的に分析した実験が参考になるかもしれません。

被験者を2つのグループに分け、「レゴブロック」で作品をつくる作業をしてもらいます。
どちらのグループも作品の数に応じて、同じ報酬が支払われます。

しかし、片方のグループは完成作品が「そのままの形で展示される」のに対し、もう片方のグループの完成作品は「その場ですぐに崩される」という違いがありました。

結果はどうなったでしょうか。「展示されるグループ」は、完成させた作品が平均10.6個だったのに対し、「すぐに崩されるグループ」の平均は7.2個と少なくなったのです。

前者は「意味のある作業」であったのに対し、後者は「意味のない作業」です。この実験から作業への意欲はお金だけではない、ことが分かります。

「仕事に意味がない」とやりがいを感じなくなります。また、「仕事の結果が見えない」と達成感も得られません。いずれも、仕事に対するやる気が失せてしまうのです。

この実験から、部下の仕事のやる気を高めるためには、上司のフィードバックが非常に重要だということが分かるかと思います。

「仕事の意味」を感じさせ、「仕事の結果」が見えるようにフィードバックすることで、部下のモチベーションを高めることができるでしょう。

「数値目標」に対するフィードバックがやる気を奪う

やる気を高めるためには、自身の心の中からモチベーションが湧いてくる「内発的動機付け」が重要になります。内発的動機付けができれば、部下自らが進んで仕事をしたくなります。

一方で、「この数字を達成しなさい」と外から設定される数値目標は「外発的動機付け」です。

数字を設定することで「数字さえクリアできればいい」と感じられてしまうので、数字を達成するための最低限の努力しかしなくなってしまいます。

とはいえ、もちろん仕事では「数値目標」が設定されることが多いでしょう。しかし、フィードバックを数字だけに注目して行うのではなく、内発的動機づけを高める工夫が必要です。

たとえば部下が「仕事の意味」を感じられるように、「その仕事が、誰にとってどれほど重要なのか」を上司の方で示したり、数字以外の仕事の結果にも注目して「見える化」したりすることが重要です。

(本稿は『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』の発売を記念し、東京大学大学院経済学研究科教授 阿部誠氏へのインタビューをもとに作成しました)