能登半島地震の復興局面で金融機関が直面する課題、リスクとは何か。前編の震災時対応に続き、後編は少子高齢化、人口減少の進む地域における現実的な復興の道筋をさぐる。(共同通信編集委員 橋本卓典)
和倉温泉の窮状
能登半島といっても、交通インフラが復旧している石川県七尾市以南と奥能登と呼ばれる輪島、珠洲エリアとでは状況は異なる。
和倉温泉のある七尾市では、具体的な復興フェーズが始まっているが、奥能登地域では小規模事業者の事業継続が危ぶまれる瀬戸際にある。そんな能登半島でどう復興を進めるのか。ピンチをチャンスに転じる発想の転換が求められる。
老舗旅館「加賀屋」など20軒あまりの旅館とホテルが立ち並ぶ和倉温泉は、全国有数の温泉街で知られる。能登半島の観光の玄関口と呼ばれ、能登復興の象徴とも位置付けられる重要拠点だ。
今回の震災で甚大な被害を受け、旅館やホテルの建物が地震で傾き、誤作動したスプリンクラーで部屋が水浸しになったほか、地面のひび割れも目立つ。源泉の組み上げはできるが、各宿泊施設に送る配管の損傷は深刻で、営業再開ができていない。
のと共栄信用金庫(七尾市)は、この和倉温泉と運命共同体だ。加賀屋などの宿泊業者だけでなく、旅館やホテルを支える多くの納入業者にも金融仲介機能を提供し、地域経済を支えてきた。
「年商1千万円以下の事業者さんも数多くおられます」
のと共栄信金の鈴木正俊理事長は、こう打ち明ける。
今回の地震は、宿泊業界にこれまでの大震災とは異なる被害をもたらしている。それは新型コロナウイルス禍で受けた打撃に上乗せされる格好で経営を揺るがしたという点だ。
「平時に起きた震災ではないのです。コロナ禍とのダブルパンチでした。事業環境が想像をはるかに超えて悪化してしまった」(鈴木氏)。
2020年からの3年間はコロナ禍で売上高ゼロが続いた。多くの事業者は実質無利子無担保の「ゼロゼロ融資」で資金繰りをつなぎ、その返済負担がじわりと重くなってきたタイミングで、今回の地震に見舞われた。コロナ禍も震災も、経営責任を問うことはできない。