震災時に金融機関はどう対処すべきか。この知見は、あまり形式知として共有されていない。能登半島地震で地元金融機関はどういう判断を迫られ、どのような壁が立ちはだかったのか。前編と後編に分けて、震災金融のリアルに迫る。(共同通信編集委員 橋本卓典)
早期の店舗窓口再開が命を守る
被災者の避難が必要な大規模災害時、金融機関は一刻も早く窓口を再開することが、被災者の命を守ることにつながる。
金融機関の窓口再開と被災者の命は、一見すると無関係に思えるが、実はそうではない。行動経済学の観点から考えると極めて密接な関係にある。
今回の震災でも、車中泊の被災者がニュースで取り上げられた。ニュースでは「エコノミークラス症候群のリスク」を指摘して、速やかな避難を呼びかけたが、これはあまり効き目がない。
「店舗窓口を再開すると、まずお客さまからお申し込みがあったのは『入金』でした。しばらくして出金、ローンの返済猶予の相談が始まりました」と語るのは、北國銀行(金沢市)を傘下に持つ北國フィナンシャルホールディングス(FHD)の杖村修司社長兼頭取だ。
なぜ「入金」なのか。それは、損壊した自宅に残した現金を預けないことには、安心して避難できないからだ。車中泊で自宅を監視しなければならない。被災者には、車中泊をしなければならない理由があるわけだ。
また、スマートフォンが通信不能となっても、車のカーナビがあればワンセグ放送を受信できる。インフラの復旧見通しの情報を入手し、家族の2次避難を判断する上でも車中泊が合理的なのだ。
車中泊を解消したければ、金融機関への速やかな入金、避難所でのワンセグ放送の配信という対策を講じなければならない。被災者の立場になって考えれば分かることだ。