人はなぜ病気になるのか?、ヒポクラテスとがん、奇跡の薬は化学兵器から生まれた、医療ドラマでは描かれない手術のリアル、医学は弱くて儚い人体を支える…。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、X(twitter)で約10万人のフォロワーを持つ著者(@keiyou30)が、医学の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを紹介する『すばらしい医学』が発刊された。池谷裕二氏(東京大学薬学部教授、脳研究者)「気づけば読みふけってしまった。“よく知っていたはずの自分の体について実は何も知らなかった”という番狂わせに快感神経が刺激されまくるから」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

“危険すぎる”病気「脂肪肝」…注意すべき2つの原因とは?Photo: Adobe Stock

あまり知られていない病気

 肝臓の病気というと、何を思い浮かべるだろうか?

 まずよく知られているのが、アルコールによる肝炎だろう。アルコールは肝臓で代謝され、最終的には水と二酸化炭素まで分解されて体から排出される。ところが、多量飲酒を繰り返すと肝臓が徐々に傷み、慢性的なアルコール性肝炎を引き起こす。ひいては肝硬変、一部が肝臓がんへと進行することもある。

 次に思い浮かぶ肝臓の病気が、ウイルス性肝炎だ。肝炎ウイルスは、A型、B型、C型、D型、E型などがあるが、そのうち肝硬変や肝臓がんを起こすのがB型とC型である。実は肝臓がん(肝細胞から発生するがん)の約七割はB型肝炎かC型肝炎が原因だ(1)。ピロリ菌が最大の発症要因となる胃がんと同様に、肝臓がんも多くは感染症が原因なのだ。

 だが近年、抗ウイルス薬の劇的な進歩により、ウイルス感染症を背景とした肝臓がんは減少しつつある。

 一方で、意外に危険性が知られておらず、その予防法も一般にあまり認知されていない肝臓の病気が増加している。それが脂肪肝だ。

 脂肪肝とは、その名の通り肝臓に脂肪が過剰に溜まる病気であり、大きく二つに分けられる。「飲酒が原因となるアルコール性脂肪肝」と「飲酒が原因でない非アルコール性脂肪性肝障害(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)」である。

 アルコール性脂肪肝は、エタノール換算で、男性では一日三〇グラム以上、女性では二〇グラム以上の飲酒を毎日続けると起こりうる病気である(エタノールの量は日本酒一合で約二八グラム、三五〇ミリリットルの缶ビール一本で約一四グラム)。一方、これより飲酒量が少ないケースでの脂肪肝をNAFLD(ナッフルディー)と呼ぶ。

 では一体、NAFLDは何が原因で起こるのだろうか? 

 NAFLDのリスク因子は、肥満や高血圧、糖尿病、脂質異常症(中性脂肪やコレステロールの値が高い)などである。つまり、メタボリック症候群がNAFLDの大きなリスクなのである。

NAFLDが怖い理由

 NAFLDは、その名前も実態もあまり知られていない。だが、日本人男性の約四一パーセント、女性の約一八パーセントがNAFLDにかかっているとされ、世界的にも患者数は増加傾向にある(2)。

 NAFLDが恐ろしいのは、放置すると将来的に約五~八パーセントが肝硬変に進行することだ(3)。ひとたび肝硬変になれば再び元通りに戻ることはなく、肝臓がんに進行するケースもある。NAFLDの中でも特に、「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」と呼ばれるタイプは、肝硬変や肝臓がんのリスクが高いとされている。

 またNAFLDは、心筋梗塞などの心血管系の病気や脳卒中など、肝臓以外の重い病気を併発するリスクも高い(4・5)。健康診断で「脂肪肝」といわれてもそれほど重く捉えない人は多いかもしれないが、実は極めて恐ろしい病気であることがわかってきたのだ。

脂肪肝を治す方法

 脂肪肝を治す上でもっとも大切なのは、生活習慣の改善である。まず、食事習慣の改善と適度な運動によって肥満を解消する必要がある。体重を七パーセント減らせば脂肪肝が改善するというデータがあるため、これが一つの目標になる(6)。もちろん、糖尿病や高血圧、脂質異常症など、原因となっている病気の治療も有効だ。

 なお二〇二〇年には、新たにMAFLD(metabolic dysfunction-associated fatty liver)という概念が提唱された(7)。高血圧や糖尿病、脂質異常症など、メタボリック症候群に含まれる代謝異常を合併する脂肪肝は、そもそもアルコール性・非アルコール性を問わず前述のリスクが高いことが分かってきたためだ。

 メタボリック症候群が肝硬変や肝臓がんにつながると思えば、その恐ろしさがよく分かるだろう。

 なお、脂肪肝の特効薬といえる薬はない。近年、一部の糖尿病薬や脂質異常症の薬(本書の2章を参照)などの効果が期待されているが、まだエビデンスは不十分だ。今後の有効性、安全性を検証すべき段階である。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれる。肝臓の病気は、よほど進行しない限りほとんど症状がないためだ。

 たとえ脂肪肝を患っていても、それだけなら無症状であり、本人は病気の存在に気づけない。こうした背景から近年は、より体に負担の少ない方法で、肝疾患の早期発見、早期治療が目指されている(8・9)。健康診断などの血液検査で肝臓の数値の異常を指摘されたときは、放置せず専門家に相談することが大切だ。

 NAFLDの概念が初めて提唱されたのは一九八五年である。これが疾患として注目を集め始めたのは、一九九八年に米国国立衛生研究所(NIH)がその疾患の重要性を提言してからだ(10)。医学はまさに日進月歩だ。ほんの数年前には誰もが認識していなかった事実も、あっという間に世界的なスタンダードになり、治療開発が進んでいく。

 脂肪肝も、近年になって危険性が詳らかにされた疾患の代表例といえるだろう。

【監修・協力:木積一浩】

【参考文献】
(1)『肝がん白書 令和4年度』(一般社団法人日本肝臓学会、二〇二二年)
(2)“Prevalence and associated metabolic factors of nonalcoholic fatty liver disease in the general population from 2009 to 2010 in Japan: a multicenter large retrospective study” Eguchi Y, Hyogo H, Ono M, Mizuta T, Ono N, Fujimoto K, et al. J Gastroenterol. 2012;47(5):586-95.
(3)『NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第二版)』(日本消化器病学会・日本肝臓学会、南江堂、二〇二〇)
(4)“Non-alcoholic fatty liver disease and risk of incident cardiovascular disease: A meta-analysis” Targher G, Byrne CD, Lonardo A, Zoppini G, Barbui C. J Hepatol. 2016;65(3):589-600.
(5)“Global epidemiology of nonalcoholic fatty liver disease-Meta-analytic assessment of prevalence, incidence, and outcomes” Younossi ZM, Koenig AB, Abdelatif D, Fazel Y, Henry L, Wymer M. Hepatology. 2016;64(1):73-84.
(6)“Randomized controlled trial testing the effects of weight loss on nonalcoholic steatohepatitis” Promrat K, Kleiner DE, Niemeier HM, Jackvony E, Kearns M, Wands JR, et al. Hepatology. 2010;51(1):121-9.
(7)“A new definition for metabolic dysfunction-associated fatty liver disease: An international expert consensus statement” Eslam M, Newsome PN, Sarin SK, Anstee QM, Targher G, Romero-Gomez M, et al. J Hepatol. 2020;73(1):202-9.
(8)“Artificial intelligence/neural network system for the screening of nonalcoholic fatty liver disease and nonalcoholic steatohepatitis” Okanoue T, Shima T, Mitsumoto Y, Umemura A, Yamaguchi K, Itoh Y et al. Hepatol Res. 2021; 51(5):554-69
(9)“Transcriptomics Identify Thrombospondin-2 as a Biomarker for NASH and Advanced Liver Fibrosis”  Kozumi K, Kodama T, Murai H, Sakane S, Govaere O, Cockell S et al. Hepatology. 2021;74(5):2452-66.
(10)“非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(NASH)”米田正人ほか.日本内科学会雑誌.110:729-37.

(本原稿は、山本健人著すばらしい医学を抜粋、編集したものです)

山本健人(やまもと・たけひと)

2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)
外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は1000万超のページビューを記録。時事メディカル、ダイヤモンド・オンラインなどのウェブメディアで連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー約10万人。著書に18万部のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)、『もったいない患者対応』(じほう)、新刊に『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)ほか多数。
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