価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

なぜ、チームで良いアイデアが出ないのか?Photo: Adobe Stock

チームでアイデアを生みだすには

 社会人向けの、とりわけマネジメント層向けの研修をしている中でよく聞かれるのが、「アイデアを部署やチームの中で出そうと思ってもうまくいかない」という悩みです。

 もう少し彼らの話を聞いてみると、大きく2つに分けられるように感じます。

 ひとつが「そもそもいいアイデアが出てこない」という悩み。

 部署内でアイデアを出そうと言っても、凡庸なものや、どこかで聞いたことのあるようなアイデアしか出てこないという悩みです。

 もうひとつが、「ブレストや議論がまったく活性化しない」というものです。

 傾聴していたり、できるだけ拾い上げてみたり、ひとつの発言から広げてみる努力をしているつもりではあるのだけど、メンバーからの発言自体がぽつりぽつりとしか出てこないというものです。

 あなたの職場では、いかがでしょうか。どちらも「よくありそう」な悩みですね。

固定観念がアイデア発想の邪魔になっている

 実は、この2つの悩みの根本は、同じところにあります。

 それは、多くの人たちが「ビジネスの現場でアイデアを出すことに慣れていない」ということです。
「ビジネスの現場」では、こうあらねばならない、という固定観念がアイデア発想の邪魔になっていることが多く見受けられます。

 ビジネスの現場においては「知識」、もしくは「経験」というものが重視されます。

 それは、学生時代に取り組んできた勉強と共通するところがあります。

 試験問題には「ひとつの正解」があるのと同様に、ビジネスにおける「知識」によって正解が決まります。だからこそ、ビジネスと試験に向けた勉強を「正解がひとつあるもの」として捉えているところがあるのでしょう。

 しかし、アイデアを生みだそうと思ったときには、「正解はひとつではない」ことがほとんどだという前提に立つことが大切です。

 これは「知識」だけでなく「経験」にも当てはまります。

 あらゆるビジネスの現場において「過去の成功体験」に固執するがゆえに、ビジネス環境の変化に対応できずにダメになっていく例があるように、疑いもせず経験から正解を導いていくことも危険です。

 そういう文化がある組織において、その組織の知識や経験に基づいて上司がアイデアを判断するのであれば、アイデアの議論は活性化しないでしょう。

リーダーに求められるのは、
「最善」だと思うアイデアを選ぶこと

 私は、アイデアの専門家として仕事をすることも多いですが、必ずしも自分のアイデアが良質のものばかりとは思っていません。

 また、100%いいアイデアばかり出せる人であったことは、ありません。

 絞りに絞ったものでもよくて打率5割。平均すると2~3割といった感じでしょうか。

「千三つ(せんみつ)」という言葉が、いいアイデアの割合として使われることがありますが、それは1000個のうち3つくらいしか当たりはない、ということを指しています。

 私は、さすがにそれだけの割合になるとモチベーションを保つのが難しくなってしまうため、そこまで確率の低いものだとは思っていません。

 いずれにしても、頭に浮かんだもののうち1%あるかないか、その程度の確率です。

 ですから絞りに絞ったアイデアを提示するよりも、次々とアイデアを出したほうがチームの議論が活性化すると思い、日々アイデアを出しています。

 アイデアを選ぶときにおいても、私は「正解かどうかはわからない」というスタンスで臨むし、チームのメンバーにもそう伝えるようにしています。

 リーダーに求められるのは、「正解」ではなく、その状況における「最善だと思えるアイデア」を選ぶことです。そして、選んだ後は、その選択をどこまで信じ切れるかが重要なのです。

 それを「正解」にするまで実行できるかどうかで、アイデアの評価は変わってくるので、次は、アイデアを広げ、実現に向けてまたアイデアを足していくというスタンスです(もちろん、その過程で「このアイデアではなかった」とアイデアを捨てて、もう一度スタートラインに戻る判断も大切です)。

アイデアを生むための「環境づくり」が大切

 高校や大学における勉強や、そのゴールとしての「試験」においては、「問題には正解があって、知識によって正解と不正解が決まって、さらに優劣を決める」という価値観が植え付けられています。これは、アイデアにとっては弊害となる価値観だと言えます。

 上下関係の少ないフラットな組織であれば、比較的アイデアは出やすい環境にあるとも言えますが、上司や先輩の言っていることが正しいという前提があるような組織においては、アイデアが出にくい環境であることを意識する必要があります。

 だからこそ、いいアイデアを生んでいくためには、アイデアを生んでいくための「環境づくり」が重要になってきます。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。