「偏差値」は1つではない
この連載では、四模試(サピックス、四谷大塚、日能研、首都圏模試)の志望者動向から、翌年実施される一般入試の実倍率などを予想してきた。2025年に受験する現小学6年生は、すでになんらかの模擬試験を受けた経験があるだろう。
基本的に学力試験一本で合否が決まる中学入試では、「偏差値」による合否判定に重きが置かれる。もちろん、入試問題と受験生との相性もある。後述するように、難関校ほど入試問題は独自性が強いので、一般的な模試の「偏差値」だけで判断できるわけでもない。それでも、5万人強いる首都圏中学受験生の中で、自分の位置付けを確認する手段として、「偏差値」は重要な指標には違いない。
一方で、「偏差値」が独り歩きすることによる弊害もある。そこで今回は、「偏差値」の見方として知っておきたい注意点と活用法について考えてみたい。
まず、「偏差値」は1つではない。同じ学校の同じ入学試験でも、模試によってその「偏差値」は異なる。模試受験生の中心となる学力層が異なっているからだ。模試によっては「偏差値」が付かない学校(入試)も出てくる。志望先として一定数が集まることが必要だからである。
次に、合格可能性(80%、50%、20%)によっても「偏差値」は異なる。例えば、四谷大塚で開成の「偏差値」を見ると、80%(Aライン80)は71だが、50%(Cライン50)は67になる。合格率80%と50%では、おおむね5ポイントほど異なることが多い。小6の夏休みが終わるまでは、自信喪失しないよう「50%偏差値」を見て、秋以降は「80%偏差値」で年明けの本番に備える、といった使い分けも考えたい。
同じ受験生が四模試のすべてを受けることは普通ない。早稲田アカデミーなら四谷大塚の模試など、通っている塾によってどの模試を受けるかはだいたい決まっている。その結果、難関校志望者が特に集中しているサピックスでは、他の模試よりも「偏差値」が低めに出る。中堅校以下は志望者がいないこともあって、「偏差値」が示されない入試も多い。逆に、中堅・中位校に強い首都圏模試では、難関校はすべて70以上となる一方で、30台の入試も多く表示される。これが3つ目の注意点となる。
どの模試の合格可能性何%の「偏差値」なのかを抜きに語ることは誤解を招くもとだろう。そのことを念頭に置いた上で、四模試それぞれの特徴をまず見ていこう。
サピックスの模試(サピックスオープン)は、サピックス小学部の難関校志望生で溢れており、併願先としての上位校や一部中堅校までの「偏差値」が示されるのみとなっている。小6の前期に2回実施される「志望校判定」模試は志望校への適性や合格可能性を判定し、9月から12月まで4回実施される「合格力判定」模試では、登録された10校までの志望校の合格可能性を判定する。
早稲田アカデミーなどの在籍者も受けることが多い四谷大塚「合不合判定テスト」は、難関校から中堅校まで幅広い受験生が集まることもあり、この連載でも通常はこちらの「合不合80(Aライン80)」偏差値を利用している。4月から12月まで6回実施され、志望先は毎回6校まで順位を付けて登録する。
日能研「全国公開模試」は日能研に通う生徒が中心となる。志望校判定があるのは、9月から12月まで5回実施される「合格判定テスト」と6月実施の「志望校判定テスト」だ。志望校登録は、入試日時が重複しないA判定が8校まで、それ以外にB判定が4校までとなっている。偏差値は合格率のR(レンジ)ごとに示され、R4(80%)、R3(50%)、R2(20%)となっている。
中堅・中位校というボリュームゾーンの受験生向けには、首都圏模試センター「合判模試」がある。4月から12月に6回実施される。志望先6校のすべての入試について判定してもらえる上、それぞれの学校の併願校も示されるなど、受験パターンの参考になる点にも特徴がある。志望先に応じて、模試を使い分けることも適切な判断のためには大切だ。
では具体的に、同じ学校の同じ入試でも四模試で「偏差値」がいかに異なるのかを男子受験生は図1で、女子受験生は図2で示した。