年初に「投資しそびれた人」は一体どれだけ損をしたのか?『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第85回は、投資で「打席に立ち続ける」ことの重要性を説く。

FXは「いかに負けるか」の勝負

 マーケットが大きく動く米雇用統計の発表日に高レバレッジで取引した結果、主人公・財前孝史は大損を被る。ハイリスク取引に怯む財前に、FX(外為証拠金取引)に詳しい投資部の富永大貴は「FXは『いかに負けるか』の勝負」と説く。

「雇用統計をチェックするぐらいなら、パブに行ったほうがマシだ」。英大手銀の著名ストラテジストにインタビューしていた時、こんな本音に大笑いしたことがあった。私も雇用統計の中身はその都度細かくは見ない。精度やブレを考えると単月の結果にあまり意味がないからだ。

 もっとも、これは「お祭り」に水を差す野暮な物言いだ。マーケットが雇用統計に反応して動くのは事実なのだから、短期売買をする人は、そういうものだと割り切ってお祭り気分で付き合うしかない。

 ちなみに日本の統計では、国内総生産(GDP)の一次推計も私はあまり注意して見ない。ニュースでは一次推計の方が大きくなりがちだが、重要な統計が反映されて精度が上がる二次推計を真面目にチェックした方が有益だ。

 FXについて「いかにうまく負けるかの勝負」という富永の見立ては正しい。一発退場の強制ロスカットを食らえば、打席にすら立てなくない。コツコツと利益を積み重ねるようなスタイルでなければ、勝つどころか、生き残ることさえできない。

稲妻が輝く瞬間とは?

漫画インベスターZ 10巻P116『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 この「リスクを取りすぎない」という姿勢と「毎シーズン毎試合、出続ける」というスタンスは、FXに限らず、投資の鉄則といえる。

 時間を味方につけて複利効果を狙う長期投資では、リスクの取りすぎは禁物。50%の損失を被れば、挽回するのに100%のリターンが必要になる。ハイリスクな商品に資金を偏らせず、資産全体ではミドルリスク・ミドルリターンに抑えておかないと、一度の急落でマネープランが大きく狂いかねない。

「試合に出続ける」という要素については「稲妻が輝く瞬間」というよく知られたフレーズがある。株式市場には、短期間の株価上昇がリターンを大きく左右するという特徴がある。その稲妻が光るようなボーナスタイムを逃してしまうと、パフォーマンスは大きく見劣りしてしまう。

 この経験則は、過去3年ほどの日経平均株価のチャートをみれば一目瞭然だ。今年の1~2月に投資しそこなっていたら、2022年以降の株価上昇のほぼ半分を享受できなかったはずだ。稲妻はいつ光るか分からない。株式投資の買いポジションを維持して、市場に居座り続けることが極めて重要だ。

 株式投資の場合、FXのような強制退場のリスクは小さい。気を付けたいのは自らの意思で退場してしまう落とし穴だ。投資に不慣れな人は、初めて株価急落局面に出くわすと怖くなって「いったん様子を見よう」と焦って保有株や投信を売りがちだ。だが、まさにそうした急落の後こそ、稲妻のような急反発は起こりやすい。

 急落時に慌てないためにも、株式のようなリスクの高い資産への投資では、「ごく短期で2~3割値下がりしたら、どんな気分になるか」を想像してみると良い。心がかなり痛みそうなら、自分の許容度を超えてリスクを取りすぎている可能性がある。

漫画インベスターZ 10巻P117『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 10巻P118『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク