日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書『会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。
「ダメな職場」に共通する1つの危険症状
ダメな組織に表れる危険症状というものもあります。かつての味の素には、まさにこの危険症状が表れていました。
それは、空気を読んでリーダーや主流派に忖度をする雰囲気です。そのことを強く感じたのは、副社長になったときです。2023年時点で味の素の時価総額は3兆円を超えていますが、2019年当時は1兆円を割る、極めて深刻な状況でした。
そんな状況下で起きたのが忖度です。当時の社長であった西井社長は人の話をよく聞くとてもいい人です。しかし、社長就任当初はいい人すぎたかもしれません。西井社長が社長として最初に取り組んだことは「360度評価」でした。自分のことについてまわりからフィードバックをもらうことで、西井社長は自分の目指すべき姿や改善すべき点をあぶり出そうとしたのです。そこにはなんの問題もありません。
西井社長が自身に対する360度評価を始めると、ここぞとばかりに、何人かの役員が、自分もやりますと同様の360度評価を始めました。しかし、私には違和感があったので追従しませんでした。
その違和感とは、その段階で360度評価をしても正当な評価を得ることはできないのではないかということです。大企業には出身畑や所属で優劣がついてしまうような空気感があります。また、自分が有利になるよう物事を進めるために上司に配慮するといったようなことも平気で行われます。
その当時は、味の素も忖度文化が強かったので、たとえ、西井社長やほかの役員が真剣に「自分に対してのフィードバックがほしい」と思っていても、本音を言ってもらえるかどうかはわかりません。
むしろ、忖度文化が強かった当時の味の素では、本音を言うのはその社員にとってはリスクを背負うことになり、わざわざ本音をぶつけてくる人は少ないように思えたのです。