頭ではわかっていても簡単に本音は言えないもの
360度評価に違和感を感じた私は、西井社長への360度評価の1回目に、自分の思いを社長にぶつけてみることにしました。
「500人から360度評価を取っても、皆さん忖度ばかりして、ろくなフィードバックは得られない。そんなことをするよりも、新社長として、『私はこうやる!』というリーダーシップをみせるべきだ」と書いた記憶があります。
すでにおわかりかと思いますが、私が一番危惧した点は、味の素では、新社長が500人から360度評価を受けても、おそらく忖度ばかりで、いい評価しか得られないのではないかということでした。
社長に物申すカルチャーではなかった会社で、いきなり「本音」を言うことは頭ではわかっていても体が動かないように、誰もがなっているのではないかと感じたのです。加えて、西井社長がいい人であればあるほど、まわりはもっと忖度していくに違いないと感じていました。つまり、360度評価という制度だけ導入しても文化が変わっていない以上はなにも効果は得られないのです。
普段から、侃侃諤諤の議論をよしとし、社長に物申す組織文化・風土を持つ企業であれば、もちろん360度評価も効果が期待できると思います。耳が痛くなるような意見も出るかわりに、社長も覚悟を持って自分のリーダーシップを発揮しやすくなるからです。
ところが、普段から忖度中心である企業で360度評価をやると、トップは祭り上げられてしまいます。就任当初の西井社長は、本人の強い決意とは裏腹に祭り上げられているように見えました。
こういったリーダーへの忖度は、組織の雰囲気がよくないことの前兆として必ず現れます。しかも難しいことに、リーダーは本音を言ってほしいと真に願っていても社員はクセで忖度してしまうため、「忖度文化」は非常に厄介なのです。