「便利な商品やサービスで溢れた時代、話の内容やスキルを磨くよりも、そもそも“話を聞きたい”と思われる人にならないと意味がありません」
そう語るのは、元アメリカン・エキスプレスのトップ営業である福島靖さん。31歳で同社に法人営業として入社し、わずか1年で紹介数・顧客満足度ともに全国1位に輝いた。しかし、入社当初は成績最下位だったそう。もともとコミュ障で、学生時代は友達ゼロ。おまけに高卒。そんな福島さんの成績が急上昇したのは、営業になる前、6年勤めたリッツ・カールトンで得た学びを営業でも実践したからだった。
その経験とノウハウをまとめたのが、初の著書記憶に残る人になる-トップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルールだ。ガツガツしなくても「なぜか信頼される人」になる方法が満載で、営業にかぎらず、人と向き合うすべての仕事に役立つと話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、「お客様との向き合い方」を実感したあるエピソードを紹介する。(構成/石井一穂)

【元トップ営業が明かす】誰も話を聞いていないイベント会場で聴衆200人の注目を集めた「異例のスピーチ」とは?Photo: Adobe Stock

「アウェイ」すぎるスピーチ会場

 営業4年目のとき、僕はあるグローバル企業のイベントに参加しました。
 家具の販売等で世界中に大型店舗をもつ有名企業で、その企業の法人会員やお得意様、約200人が集まり交流する会でした。
 アメックスともパートナー契約を結んでいたことから、僕を含む10人ほどが招待されました。

 上司からは、1人でも多くの人と名刺交換をして、法人カード契約のためのアポイントを得るというミッションを与えられていました。
 会の前半、参加企業10社に3分ずつスピーチする時間が与えられていて、アメックスの代表は僕でした。
 順番は最後の10番目です。

 各社、自社と商品を売り込もうと熱弁していました。
 ですが会場を見渡すと、お酒が提供されていたこともあり、参加者は酔って互いの話に夢中。
 企業のスピーチなんて誰も聞いていませんでした……。
 気持ちはわかります。 
 せっかく盛り上がっているのに「弊社ではこんな商品を扱っておりまして~」なんてセールストーク、正直、聞きたくないですよね。

上司の指示を無視した「異例のスピーチ」とは

 そんな状況で順番が近づいてきて、いよいよマイクが手渡されました。
 会社から「これを話せ」と言われていた内容がありましたが、僕はそれを却下しました。
 そしてステージに立ち開口一番、こう言いました。

「みなさん、こんばんは! アメックスの福島と言います。聞いてください。僕たちは今日、営業しに来たわけじゃないんです!」

 さっきまで会話に夢中だった参加者が、いっせいにこちらを向いてくれました。
 僕は続けて言いました。

「僕たちは経営者を相手に仕事をしています。でも、僕たちはいち会社員です。だから今日は、もっと経営者を理解したいと思ってここに来ました。いろいろと学ばせてください!」

 自分の会社について話したのは「会社名」と「仕事内容」の10秒くらい。
 会社の代表として参加している立場としては失格でしょう。

 でも、すごく不思議なことが起こりました。
 スピーチを終えると、会場から大きな拍手をいただいたんです。
 そして多くの人が「名刺交換いいですか?」と、僕たちのところに来てくれました。

なぜ経営者たちに絶賛されたのか?

 ひとりの経営者に「なぜ、来てくれたんですか?」とうかがうと、笑顔で一言。

「お話に感動したからです。だって、全然営業っぽくないんですから」

 会場の経営者たちを「見込み客」として見ていたら、こうはならなかったと思います。
「アメリカン・エキスプレスというカードを扱っていまして、強みは100円で1ポイントの高還元率でポイントが貯まることで~」
 そんなことを話したところで、誰も興味を持ちません。
 驚きも新奇性もないスピーチでは聴衆の関心は奪えませんし、「売るために来ている」とわかった瞬間、経営者たちは興味を失っていたでしょう。

「売るための言葉」なんて、誰にも届かない

 見込み客を見つける。名刺交換をして営業リストを作る。出資者を探す。商品を知ってもらう。
 交流会やイベントの参加者には目的があります。
 すべてに共通するのは「自分の利益のため」であるということ。
 これを自ら否定したことで「この人は普通の営業じゃないな」と、人として関心を持ってもらえたのだと思います。

「売るための言葉」なんて、誰も聞いてくれません。
「売る人と、買う人」ではなく、「人と人」として向き合いましょう。

(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)

福島 靖(ふくしま・やすし)
「福島靖事務所」代表。経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、「俳優になる」ことを口実に18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。同社が大切にするホスピタリティを体現し、6年間で約6,000人のお客様に名前を尋ねられるほどの「記憶に残る接客術」を身につける。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、リッツ・カールトン時代に大切にしていた「記憶に残る」という在り方を実践したことで、1年で紹介数、顧客満足度、ともに全国1位に。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSky(プライベート・ジェット機の販売・運航業)に入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。本書が初の著書となる。