
京都先端科学大学教授/一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏が、このたび『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。日本企業が自社の強みを「再編集」し、22世紀まで必要とされる企業に「進化」する方法を説いた渾身の書である。本連載では、その内容を一部抜粋・編集してお届けする。今回のテーマは、日本企業とその従業員の「生存戦略」。転職市場の活性化や副業の普及に伴い、組織の在り方が変わりつつある中、双方は未来に向けて何をすべきか――。
「会社は実体がない」
ファーストリテイリング柳井会長が説く真意とは
分散型インターネットのウェブ3の時代には、いずれ会社という組織そのものが流動化し、変態し続けていくはずだ。少なくとも、古典的な「ザ・カイシャ」、いまでいうところの「TJC(Traditional Japanese Company)」は、姿を消していくことになるだろう。
会社は組織の一形態にすぎない。そして組織(organization)は、生きた有機体(organism)である。常に進化し続け、新しい細胞を生み続けない限り、腐敗して死を迎える。「企業の寿命は30年」と言われる通りである。

京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏
東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。 2025年2月に『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、「会社は実在するのか」という問いに、次のように答えている(※注)。
「そうです。実体がないんです。会社というのは一種のプロジェクトで、期限があるもの。みんなでこういう事業をやろうと集まって、事業目的を追求するためにお金が要るので上場する。株主がお金を出してくれるから成り立っているけれど、ステークホルダーの一員であって、株主がすべてではない」
「利益のためだけに仕事をするのは最低ですよ。そうなったら社会にとっての利益にならない。もうけることは重要だけど、社会に貢献できない会社は社会から排除される」
会社は一種のプロジェクトである。そして、パーパス(目的)が達成された時点で、役割を終える。もっとも、いつまでもパーパスが未達成のままだと、それ以前に排除される。