原因からも分かるように、終わってみれば処方箋はシンプルだった。再び資産価格を上昇させればよい。それはアベノミクスやコロナ相場を経て達成され、日本企業はいわゆる「バランスシート不況」を脱した。日経平均最高値更新と表裏一体の現象として、デフレ不況は終焉を迎えたのである。
むろん、これが「賃金と物価の好循環」に直結するかどうかは不透明だ。デフレ脱却の恩恵が賃金にも分配されるか否かは、原資を有している日本企業の意思決定次第だからである。まして、日本経済の成長率は労働人口や生産性、交易条件にも依存するため、株価とは距離がある。
それでもデフレを脱却した以上、名目値としての企業収益は増加し続ける。日本の労働分配率は低下傾向である傍ら、資本分配率が上昇しているのだからなおさらだ。
このいわば「資本主義の不都合な真実」の下で労働者が恩恵にあずかるためには、株式投資でその一部を享受する必要がある。しかしバブル崩壊後の苦い経験もあり、日本の家計は株式の保有に保守的であり続けてきた。今後、経済合理性に従って「貯蓄から投資」への回帰が進めば、日本もようやく、他国と同様に、名目ベースのあらゆる指標が最高値を更新し続ける時代に入るのだろう。
(みずほ証券 エクイティ調査部 チーフエコノミスト 小林俊介)