『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第97回は、「研究分野における投資」について考える。
日本の研究開発費は、決して低くない
龍山高校をエリート育成学校にしようと主張する龍野久美子・理事長代行に対して、東大合格請負人・桜木建二は「日本にエリート教育などいらない!」とバッサリ言い切る。
エリート教育というと、世界各国の寄宿制学校をイメージする人が多いかもしれないが、それはそもそも人材教育とは全く違うという。そして、桜木は優秀な人材を育てるのに必要なのは、教育ではなく投資だと主張する。
10月の第1週はノーベル賞が発表される週である。今年は生理学・医学賞に坂口志文氏が、化学賞に北川進氏が選ばれた。日本人の複数分野での同時受賞は2015年以来の10年ぶりだ。日本人の受賞者が出ようと出まいと、この時期毎年のように叫ばれるのが、「基礎研究への投資」の重要性である。
いわく、日本は基礎研究への投資が乏しい。基礎研究を充実させてこそ、研究の裾野が広く分厚くなり、結果的にノーベル賞級の発見につながるのだ、と。
だが、この言説はデータを詳細に見ると、必ずしも単純ではないことがわかる。
文部科学省に置かれている科学技術・学術政策研究所の「科学技術指標」によれば、2023年時点で、日本の研究開発費総額は主要7カ国の中で第3位だ。この中の「基礎研究への配分」も米国(14.5%)と同程度の14.4%と決して低くはない。
むしろ、注目すべきはその担い手と資金源であろう。
日本では大学が基礎研究の主要な担い手であり、大学の研究開発費の約5割が基礎研究に充てられている 。しかし、その大学の研究費財源を見ると、企業からの資金提供は約3〜4%に過ぎず、韓国(約13%)や中国(約32%)などと比較して低いのがわかる。
背景には「企業と大学の連携不足」が
『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
「科学技術指標」は、日本の科学技術が持つ強みも示している。
その1つが特許だ。2カ国以上に出願される特許(パテントファミリー)の数では、日本は約20年前から世界第1位を維持している。特に「一般機器」や「電気工学」といった分野で高い世界シェアを持っている 。
一方で、弱みも存在する。論文の総数では世界5〜7位だが 、トップ10%やトップ1%の論文数になると世界12〜13位へと順位を落とす。さらに深刻なのは、科学と技術の連携の弱さだ。
特許が論文をどれだけ活用しているかを示す指標であるサイエンスリンケージを見てみよう。日本の特許が論文を引用する割合は6.9%と、主要7カ国中最下位なのである上、日本よりも米国の論文の方を多く引用している。
これらの背景には、企業の研究開発投資額自体は大きいものの、その多くが製品開発に近い「開発研究」(企業研究費の約8割)に集中し、大学の基礎研究との連携やその成果の活用が十分に進んでいないという構造的な課題があると考えられる。
特に、政府から大学への交付金が伸びない中で、自己資金や企業からの投資に頼らざるを得なくなっている大学にとって、企業に利益を確約できない基礎研究はやりづらい。
学問としての科学技術は、初めから実用化されることが想定されているわけではない。
日本人として初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹は、著書『旅人――ある物理学者の回想』の中で次のような名言を残している。
「未知の世界を探求する人々は、地図を持たない旅行者である。地図は探求の結果として、できるのである」。
ただ未知を探求する、それが結果として長期的な利益に結びつくのであり、何より、学びとして面白いのである。
『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク







