5月20日、台湾・台北で行われた就任式で演説する頼清徳新総統5月20日、台湾・台北で行われた就任式で演説する頼清徳新総統 Photo:Annabelle Chih/gettyimages

台湾の頼清徳総統が
就任演説で中国を“挑発”

 5月20日、台湾で頼清徳新総統が就任演説を行った。蔡英文氏は8年務めた総統を退任し、同じ民進党による新政権が正式に発足した。タイトルを「民主、平和、繁栄の新台湾を打ち立てる」とし、演説を通じて「民主」という言葉を31回、「平和」を21回使用した頼氏だが、最も注目されたのはその「中国観」であった。2週間前に掲載した前回のコラムにて筆者は、「台湾有事」リスクを占う、新総統の就任演説で注目すべき「3つのポイント」として、以下を問題提起した。

(1)両岸関係、すなわち中国との関係を巡って、2020年時の蔡英文演説を全体的に継承するか、あるいはそれよりも緩和的、強硬的な内容、論調になるかどうか。

(2)「中華民国台湾」という“国号”を使用するかどうか。

(3)習近平氏率いる中国側を何と呼ぶか。2016年時、蔡英文氏は終始「両岸」という用語を使用し「私たち」を強調、一方2020年時には、「北京当局」という用語でやや突き放すように中国側をけん制した。

 この3つのポイントに沿って、頼氏の就任演説を振り返ってみたい。

 まず(1)に関してだが、2020年の蔡英文演説に比べて、頼清徳演説が強硬的になっていたのは明らかだったと思われる(演説と政策は別問題。言葉が強くなったからと言って、行動が伴うとは限らない)。

 頼氏は演説の中で次のように主張している。

「中国に呼び掛けたい。台湾への言葉による攻撃、武力による威嚇を停止し、台湾と共に世界的責任を果たし、台湾海峡と地域の平和と安定の維持に尽力し、世界を戦争の恐怖から解放すべきだ」

「中国が、中華民国が存在する事実を正視し、台湾人民の選択を尊重することを望む」

「中国の主張を全て受け入れ、主権を放棄したとしても、中国が台湾を併合するたくらみは消えない」

「中華民国憲法によれば、中華民国の主権は国民全体に属する。中華民国の国籍を有する者が、中華民国の国民だ。その意味で、中華民国と中華人民共和国は相互に隷属しない」

 中国に対する警戒心が色濃くにじみ出ているが、特に最後の文言は非常に強いものである。蔡英文前総統が2021年の国慶節演説で語っており、民進党指導部として目新しい発言ではないが、就任演説という最も権威ある場でそれを口にした意味は重いと筆者は考える。

 次に(2)だが、頼氏は演説の中で「中華民国台湾」に3回言及した。筆者は4年前の今回の就任演説の映像を見比べたが、蔡氏は、2016年の演説では使わなかった経緯もあってか、中国側がどう反応、反発するのかを警戒しながら、演説の最後のほうでさりげなく言及し、ジャブでけん制球を投げるという印象を抱いたが、今回の頼氏は、演説開始早々に「中華民国台湾は独立した主権国家だ」という文脈で、言及というよりは主張し、ストレートで直球勝負という感じであった。

 最後に(3)であるが、頼氏は対岸のことを明確に「中国」と名指しし、それは「中華民国」とも「中華民国台湾」とも「台湾」とも異なる存在だという現状を何度も言語化してみせた。