リーダーシップの世界的権威、「世界一のメンター」として知られる、ジョン・C・マクスウェル。著作累計2600万部を誇るベストセラー著者の彼が、彼が偉大なリーダーたちが実践しているという21の法則をリストアップしたのが、『「人の上に立つ」ために本当に大切なこと』だ。「あなたの生き方を一新するために、この本を使ってほしい」とメッセージされた一冊のエッセンスとは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

「人の上に立つ」ために本当に大切なことPhoto: Adobe Stock

優れたリーダーになるための21の法則

 フォーチュン500の有力企業や陸軍士官学校など、ビジネス、軍、政治、スポーツ、国際協力はじめ、あらゆる分野から絶大な信頼と人気を得ているリーダーシップの世界的権威、ジョン・C・マクスウェル。

 部下を心から従わせているリーダー。人々を引きつけ、物事を成し遂げるリーダー。そんなリーダーを一人でも多く輩出しようと、彼が記した一冊が『「人の上に立つ」ために本当に大切なこと』だ。アメリカでは1999年に刊行され、たちまちベストセラーとなり、日本でもすでに10万部が発行されている。

 本書に掲載されているのは、優れたリーダーになるための21の法則だ。しかもそれは、偉大なリーダーたちから導き出されたもの。

 テーマとして「人格」「カリスマ性」「不屈の精神」「コミュニケーション能力」「能力」「勇気」「洞察力」「集中力」「与える心」「独創性」「聞くこと」「情熱」などが挙げられ、それぞれに格言がつけられる。

 たとえば、こんな具合だ。

[自己規律]最初で最大の勝利は、自分自身を克服することである。(P.189)
[奉仕の精神]自分の地位を愛する以上に、自分についてきてくれる人びとを愛さなければならない。(P.199)
[学ぶ心]大切なのは、何かについて知り尽くした後で、さらに何を学ぶかということだ。(P.209)

 そして、説得力ある解説が、21の法則すべてに展開されるのである。

ビジョンを大きく燃え上がらせた意外な出来事

 掲げられたテーマそのものは一見、リーダーシップに必要なものとしては、普通のものに思える。しかし、これが偉大なリーダーをモチーフに詳しく解説されるとき、印象が変わる。

 例えば、[ビジョン]。格言は、「未来は、それが明らかになる前に可能性を見る人のものだ」。モチーフに使われている偉大なリーダーは、ディズニーの世界の生みの親、ウォルト・ディズニーである。

 20世紀で最も偉大な夢を実現した人の一人、と著者は記す。音声入りのアニメ、カラーアニメ、長編アニメ映画を世界で初めて制作した。こんな人物は、ビジョンを持った人物であることは間違いないだろう、と。

しかし、彼のビジョンが生み出した最大の傑作は、ディズニーランドとディズニーワールドだ。ただし、そのビジョンを大きく燃え上がらせた原動力となったのは意外な出来事だった。(P.220)

 二人の娘がまだ小さかった頃、ウォルトは土曜の朝になると娘たちをロサンゼルスの遊園地によく連れて行った。少女たちは父親と一緒にとても楽しい時間を過ごした。遊園地は、子どもの楽園だ。

 ポップコーンと綿菓子の匂い、乗り物の看板の派手な色使い、ジェットコースターが急降下するときの子どもたちの歓声。

 だが、次第に気づいていくのである。

ウォルトは回転木馬に特に魅せられた。近づいて見ると、明るい色をした多くの木馬が蒸気オルガンの陽気な調べに合わせてぐるぐる回りながら競争をしているようだった。しかし、さらに近づいたとき、回転木馬は停止し、彼は自分の錯覚に気がついた。木馬のペンキははげ、ボロボロだったのだ。上下に動いていたのは外側の木馬だけで、それ以外の木馬はすべて床に固定されていた。(P.220-221)

 だが、この落胆こそが、ウォルトの壮大なビジョンを生むきっかけになったのだ。彼の心の目には、子どもも大人も楽しめる、夢が壊れない遊園地が見えていた。

 この文章を書いている私はかつて、東京ディズニーランドができる前からプロジェクトに携わっていた人物(『ディズニー こころをつかむ9つの秘密』の著者/渡邊喜一郎氏)に取材をした経験があるが、まさにディズニーの真髄を語っていた。アトラクション内で、絶対に観客に見えないところにあるリンゴの模型の裏側にも、しっかりペンキが塗られているというのだ。

 やがて、ウォルトの夢は、ディズニーランドとなって実現した。「ペンキのハゲていない、すべての馬が飛び跳ねている回転木馬」を象徴として。

リーダーを導くのはビジョンだから

 リーダーにとって、ビジョンはすべてである、と著者は記す。それはまさに必要不可欠なものだ、と。なぜか。リーダーを導くのはビジョンだからである。目標を描くのもビジョン。心の中の炎を燃え上がらせ、リーダーを前へと駆り立てるのもビジョン。

リーダーについていく人びとの心の中に炎を燃え上がらせるのも、やはりビジョンである。ビジョンを持たないリーダーは、どこにも進むことができない。ただ、ぐるぐる回っているだけだ。(P.221)

 そして、ビジョンとリーダーとの関係について把握するために4つのことを理解しておこう、と説く。

 1. ビジョンは内面から始まる
 2. ビジョンは過去から生まれる
 3. ビジョンは人びとのニーズに応える
 4. ビジョンは資源を集めるのに役立つ

 ビジョンは誰かに授けられたりするものではない。お金で買ったり、求めたり、借りたりすることもできない。夢から生まれる神秘的なものでもない。リーダーの内面や過去から生まれるのだ。ウォルトの実例がそれを教えてくれる。

 さらにあなた自身のビジョンを見つけ、その実現のためにできることも本書のなかで解説されている。その上で、こう提案する。

あなたが自分のまわりの世界で変わってほしいと思うものは何だろう。現実にはそうではないが、そうなればいいと思うものは何だろう。アイデアが明晰になり始めたら、それを書き出して助言者に相談しよう。(P.227)

 たくさんの偉大なリーダーから「リーダーになるための法則」を具体的に学ぶことができる一冊。ウォルト・ディズニー以外にも、印象的なリーダーの言葉がたくさん登場する。それをじっくりと味わうだけでも楽しい。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。