会議が口論に近い状況になったときに、急にスイッチが入ってカっとなってしまう人がいる。そんな時、不用意に「感情的にならずに冷静にいきましょう」と反応してしまうと、かえって相手を怒らせ状況は悪化する。では、そんな時にどうしたらいいか。それを教えてくれる本が、3万人に「人と話すとき」の対話術を指導してきた人気ファシリテーション塾塾長の中島崇学氏の著書『一流ファシリテーターの 空気を変えるすごいひと言――打ち合わせ、会議、面談、勉強会、雑談でも使える43のフレーズ』だ。今回は、同書から特別に抜粋。相手の承認欲求を満たして、事態がエスカレートするのを避けるひと言を紹介する。

感情のスイッチPhoto: Adobe Stock

逆効果になる避けるべきひと言

 会話が白熱すると、口論に近い状況になることもあります。

 主張が異なる人同士はかなり感情的になっていて、「一歩も譲れん!」という状態。このままでは、相手の話を聞こうともしなくなります。

 そんなとき、どうすればいいのでしょうか?

×「まあまあ、感情的にならず、冷静にいきましょう」

 取り繕う言葉をつい発しがちですが、何の役にも立ちません。最悪の場合、「いい加減なこと言ってごまかすな!」と火に油を注ぐことに。
 対立が生じたらしっかりと向き合って、順番に解きほぐしていきましょう。

マズローの社会的欲求に注目したひと言

 心理学者のアブラハム・マズローの「人の五大欲求」をご存じの方も多いと思います。

 生理的欲求
 安全の欲求
 社会的欲求(愛・所属の欲求)
 共感・承認の欲求
 自己実現の欲求

 根源的な基本欲求は生理的なもので、次に安全の欲求です。飢えることなく安全に暮らしたい―しかし社会的動物である人間は、それだけでは満たされません。

 そこで「社会的欲求(愛・所属の欲求)」が出てきます。
 他人から愛されたいし、つながりをもちたいから、人は家庭を築き、組織に属します。今は家族の形も働き方も多様化していますが、緩いコミュニティやSNSでも何かしらの「つながり」を求めているという点では同じです。

 さて、ケンカ腰になっている人に対しては、この「愛・所属の欲求」が満たされるように対応しましょう。みんな同じ所にいて、同じゴールを目指している仲間だと伝えるのです。

○「私たちは目指すものは同じですよね。一人ひとりが本気で考えているからこそ、いろいろな意見が出ますね」

感情的

承認欲求を同時に満たす

 この言葉には、4つ目の共感・承認欲求も含まれています。「あなたの意見はあなたの本気から出ているものだ」というメッセージが込められているからです。

「本気だからこそ熱い意見が出てくるし、対立することでいろんな角度から意見を検討できますね。軋轢が生じるのは健全なことです」

 このようにしっかりと、「どちらの発言も素晴らしい」と努力をたたえ、「議論を進めるために必要なことだ」と意味付けします。

「ここまで真剣に意見を出してくださって、ありがとうございます」と、感謝の言葉を付け足してもいいでしょう。「おかげで相互理解が深まりましたね」と、意義のある話し合いだったと意味付けまで行えれば盤石です。

 対立モードだった人たちは、同じチームであったことを思い出しながら、困っているはずの進行役が感謝と意味付けまでしてくれたことに驚き、興奮を静めて好感を抱くはずです。

 雨降って地固まる。「愛・所属の欲求」と「共感・承認の欲求」を言葉で伝えたら、そこで休憩をはさむのも賢いやり方。席替えもおすすめです。クールダウンしてすっきりすれば、対立モードが友好モードに変わることもよくあります。