文章が読み手に「刺さる」か否かは数字の使い方で決まる、という話だ
スタンフォード経営大学院教授が学生に教えている、「ただの数字」を「感情を動かす数字」に変える具体的方術を100以上公開した新刊数字の翻訳が、刊行される。
本記事では、その中から、公衆衛生のメッセージを伝えるための具体例を1つ紹介する。(構成・写真/今野良介)

手、洗ってます?

すべての数字は「翻訳」する必要がある。どういうことか。

一つ、公衆衛生のメッセージを例に挙げよう。

これは、大学院生向けの「メッセージを記憶に焼きつける」ワークショップで、マリアル・ウィリアムズという学生が発表したものだ。

人間の脳がパーセンテージをいかに非現実的に感じるか、そしてパーセンテージを単純な数字に翻訳したものをいかに現実的に感じるかをとてもよく表している。

下を見ていただきたい。

上が「ただの数字」であり、下が「翻訳した数字」だ。

アメリカの大人の40%が、家でトイレをしたあと毎回手を洗っていません。



あなたが握手する5人に2人は、トイレのあと手を洗っていないかもしれませんよ。

40%という数字は、そこまで多いように思えないし、ピンとこない。「だからどうした?」「トイレをしたあと手を洗わない人がいるといっても、大半の人が洗うんだろう?」、と。

だが、これを「5人に2人」に変換して、誰もが経験するシチュエーションに当てはめると、どんなにマズい事態なのかがよくわかる。あなたが5人と握手したら、そのうちの2人はトイレのあと手を洗っていないかもしれないのだ。

これを読みながら消毒薬に手を伸ばしている人もいるだろう。

「トイレのあと手を洗わない」不届き者へ贈るスタンフォード大教授からのリアルな忠告「やべ、手洗ってねえや。ま、いっか」 Photo by Ryosuke Konno

相手にやさしい、丸い数字を使おう。

相手にやさしい、きれいな手で握手しよう。

(了)

※本記事は書籍『数字の翻訳』の一部を元に編集しています。