また、噂の真偽を確かめるべくこの店を訪れたトランプ派のネット配信者も、事実の断片を拡散させています。この配信者はピザを注文したあと、スマホを使って店の奥の撮影を試みました。ところがその時、店の奥では子どもの誕生日パーティーが開かれているところでした。子どもたちが見ず知らずの人物から撮影されるのは好ましくないと考えた店側は、たまたま外にいた警察に助けを求め、配信者を店から退去させました。しかし配信者は「子どもがたくさんいた」「退去させられた」という事実を「この店で何かが行われている」証拠として解釈し、多くの人びともそれを受け入れたのです。

 この事件では、ピザ店の向かいにあるフランス料理店も、陰謀に加担しているとみなされ、脅迫や嫌がらせのターゲットになりました。この料理店のサイトには、同店の店主とその娘がクリントンと一緒に写っている写真が掲載されていました。サイトにはさらに、小児科医院への募金者であることを示すハート形のロゴマークも掲示されていました。ところがソーシャルメディア上では、それを児童ポルノのシンボルとする解釈が広がったのです。

「全てがつながった!」ことで
事実だと主張したい陰謀論者

 このように陰謀論の特徴は、事実の断片を無理につないでいき、荒唐無稽な物語をつくりあげていく点に求められます。私自身の経験でいえば、ずっと以前、2ちゃんねるで叩かれていたときに、私が韓国政府のエージェントであり、日本を貶めようとしているという陰謀論的主張が展開されているのをみたことがあります。

 曰く、津田はとある学会の会員である(事実です)。曰く、その学会は毎年、韓国の学会と合同でシンポジウムを開催している(事実です)。したがって、津田は韓国のエージェントである(Q.E.D.)。私からすれば「そんなわけあるか!」と言いたくなる「証明」ですが、このようにして「全てがつながった」と言い出すのは陰謀論者にしばしばみられる特徴です。

 こうした陰謀論やフェイクニュースの問題は、右派的な言論との関連で語られることが多いものの、実際には政治的な党派を問わず似たような発想はみられます。日本での調査においても、国政選挙での勝利が困難な状況が続いている左派やリベラル系の政党の支持者は、選挙で不正が行われているという陰謀論的発想を受け入れやすい傾向にあることが確認されています。

 この意味で興味深いのは、近年出版された陰謀論に関する著作において「2016年の大統領選挙においてトランプはロシアと共謀したことで勝利した」との主張が陰謀論として紹介されているという点です。トランプ陣営とロシアとが共謀していたという証拠はみつかっていないにもかかわらず、反トランプ陣営は自分たちが選挙で負けた理由を真剣に検討するのではなく、「トランプ陣営とロシアとの共謀のせいで負けた」という陰謀論に安易に飛びついてしまったというのです。