『おじいちゃんが教えてくれた 人として大切なこと』という一冊の本が刊行される。手の付けられない乱暴な子に育った著者が、思春期の頃、おじいちゃんに教わった「人生の教訓」について書いたものである。そして実は、タイトルにある「おじいちゃん」とは、かの有名な「ガンジー」のことなのだ。12歳だった孫の人生を変えたガンジーの教えとは? 世界中の人々が「自分」と向き合うきっかけとなった本書の邦訳を記念して、その一部を特別に公開する。
ガンジーが捨てた「役人からの手紙」
バプジ(「祖父」の意味)はどんなものでも粗末にしなかった。とはいえ、そんなバプジから見ても、「価値のないもの」は存在する。
バプジのところには、毎日のようにたくさんの手紙が届いていた。その手紙がいっぱい詰まった袋を受け取り、それぞれ封を切るのも私の仕事の一つだった。それは重要な任務だった。封筒をきれいにはがして解体し、裏返してまた封筒を作るのだ。そうすれば、紙を無駄にすることなく、返事を書くことができる。当時はまだリサイクルという発想はなかったけれど、バプジが私に与えた仕事は、まさにリサイクルそのものだった。
当時、バプジはインド独立運動の中心にいた。独立には、いろいろと厄介な問題もつきまとう。一九三一年、インドの未来を話し合う円卓会議に出席したとき、バプジはイギリスの役人から分厚い封筒を受け取った。
その夜、バプジは封筒を開けて中の手紙を読んだ。手紙の内容は、誤解や中傷ばかりだった。しかも紙いっぱいにぎっしり書かれているので、返事を書くのに使えそうな余白もない。そこでバプジは、分厚い手紙をすべて捨ててしまった。
翌朝、バプジはあの役人に会うと、手紙の感想を尋ねられた。「あの手紙の中で、もっとも大切なものを二つだけとっておきました」とバプジは答えた。「封筒と、便せんをとめていたクリップです。あとは全部ゴミなので捨ててしまいましたよ」
「本当に大切なこと」だけに心を向けなさい
私たちはみなこの話を聞いて笑ったが、ここには深い真実も隠されている。バプジは、「精神の無駄づかい」も嫌っていた。本当に大切なことを考えず、どうでもいいことに思考を使ってしまうのが「精神の無駄づかい」だ。バプジには、くだらない誹謗中傷に付き合っている時間などなかったのだ。
自分がいつまで生きるかは誰にもわからない。バプジにはそれがよくわかっていたので、時間を一秒たりとも無駄にしなかった。究極の無駄づかい、もっとも破壊的な無駄づかいとは、自分の時間を浪費することだろう。
(本記事は、『おじいちゃんが教えてくれた 人として大切なこと』(アルン・ガンジー著、桜田直美訳)の一部を抜粋・編集したものです)