子どもの頃に「おとなしい」と言われて嫌な思いをした方は多いのではないでしょうか。言っているほうは悪気はなくても、「おとなしい」という言葉にはどこか否定的な響きがあります。「内向的」という意味合いが込められている場合が多いからです。「外向的」な性格で悩んでいる人には会ったことがありませんが、「内向的」であることはよくないことと世間では受け止められてきました。しかし「内向的」な性格にも長所はたくさんあるのです。世界の大富豪イーロン・マスク、「ハリー・ポッター」シリーズの生みの親JK・ローリング、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズなど、世界の偉人とも言われる多くの成功者は、子どもの頃に内向的な性格でした。一人で深く思考を重ねるのが好きでした。だからいじめの対象になることも少なくありませんでした。しかし彼らは、ある時点で自分を成長させ、自分の良さを保ったまま、世に出ることができたのです。本連載では、最新の脳科学研究から明らかになった、「おとなしさの真実」とさまざまな「性格をリセットして成長させる方法」をお伝えします。

【性格の非常識】「おとなしい人」は仕事ができない?Photo: Adobe Stock

「誠実性」が高い人は成功する確率が高い

 成功に不可欠な性格の要素があります。

 それは、コツコツと地道に努力する「誠実性」の高さです。

 おとなしい人は、「内向性」が高い人だけでなく、「誠実性が高い」人も多数含まれます。

 誠実性とは、成果が出るまで忍耐強く努力を続けたりできるセルフコントロールの力が高いことです。今、たとえやりたいことがあったとしても、将来のために自分を抑えて大切なことにエネルギーを注ぐことができます。派手に結果をどんどん出すというよりも、着実に前に進んでいくタイプで、このような人たちもよく「おとなしい人」に見られます。

 このようにあまり目立たない「誠実性」ですが、米国のレイ・バリック教授らが、さまざまな職業で、どんな性格が仕事の成功に結びつくのかを調べたところ、意外な結果がわかりました。

 なんと、「誠実性」が、かなりの確率で仕事の成功に関連していたのです。「誠実性」が高いとキャリアで成功するかどうかも、予言のように予測できるという研究もあります。

 またスポーツの世界でもよくゾーン(フロー状態)に入ると言いますが、この絶好調の状態になるために関連していたのも、誠実性でした。フロー状態になると集中力や身体的なパフォーマンスが高まるため、何をやってもうまくいく状態になります。つまり、ビジネスやスポーツなどあらゆる分野でうまくいきやすくなります。リラックスすることは大事ですが、どうやらいいかげんすぎると、フローに入りづらくなるようです。

 ただ、誠実性が高すぎると、緊急の決断に時間をかけすぎたり、ルールに固執してイノベーションが起きづらくなったりするデメリットも報告されています。過ぎたるは及ばざるが如し、ではないですが、何事も行き過ぎはよくなく、適度なバランスが大切ということだと思います。

 また、この誠実性という「おとなしい性格」に含まれる性格は、子どもの頃から伸ばしてあげることも大切です。

 よく欲しいものを我慢できず派手に暴れる子どもがいますが、このような子どもは自分の気持ちをコントロールする力(誠実性)が低いのです。

 実はそういった子どもは、大人になってもあまり豊かな人生を過ごせない人が多いことがわかっています。

 米国・デューク大学の1000人の子どもたちを30年追跡リサーチした研究からも、小さい頃のセルフコントロール力は、32歳になったときの経済状態、社会的地位に関係していることがわかりました。

 我慢できない子どもたちは大人になってもその傾向があり、衝動を抑えられないため、仕事もせず、ギャンブルにはまり、中には犯罪やドラッグに手を出す人さえ多かったのです。他のリサーチでも、失業、ホームレス、薬物依存や犯罪率に誠実さが関係していたそうです。

 忍耐強く課題に取り組んだり、衝動や欲望に負けずにコツコツ努力できる人ほど、人生がうまくいきやすいことがわかったのです。

 また誠実性は、小学校低学年の算数と読字力のテストの成績まで高めるようです。中学生では、学年末の成績だけでなく、出席率、全国標準学力テストの成績にも比例することが示されています。怒りの感情をコントロールできる子どもほど、知能が高い傾向まであるようです。

※本記事は『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』西剛志(ダイヤモンド社)より抜粋したものです。