子どもの頃に「おとなしい」と言われて嫌な思いをした方は多いのではないでしょうか。言っているほうは悪気はなくても、「おとなしい」という言葉にはどこか否定的な響きがあります。「内向的」という意味合いが込められている場合が多いからです。「外向的」な性格で悩んでいる人には会ったことがありませんが、「内向的」であることはよくないことと世間では受け止められてきました。しかし「内向的」な性格にも長所はたくさんあるのです。世界の大富豪イーロン・マスク、「ハリー・ポッター」シリーズの生みの親JK・ローリング、アップル共同創業者のスティーブ・ジョブズなど、世界の偉人とも言われる多くの成功者は、子どもの頃に内向的な性格でした。一人で深く思考を重ねるのが好きでした。だからいじめの対象になることも少なくありませんでした。しかし彼らは、ある時点で自分を成長させ、自分の良さを保ったまま、世に出ることができたのです。本連載では、最新の脳科学研究から明らかになった、「おとなしさの真実」とさまざまな「性格をリセットして成長させる方法」をお伝えします。

【性格の新常識】「静かな人」は深い知見を持っている

内向型の脳のほうが、より深く考える能力が高い

 内向的な性格についての誤った考え方は、内向型の人には自分の意見がないということです。

 口数が少なくだまっていたり、積極的に発言する様子もないため、パッと見ると確かに意見がないように見えるかもしれません。

 しかし、脳の研究では、外向型の人よりも内向型のほうが、深く考える能力が高いことがわかってきています。

 これは、実際に内向型の人の脳をスキャンしてわかったことですが、濃いグレーで示した部分が、内向型の人が発達した脳の部分を示しています。

 脳には神経細胞が密集した灰白質と呼ばれる部分があります。

 内向型の人のほうが、前頭前野の約3分の1を占める上前頭回/中前頭回と右頭頂接合部の灰白質が厚くなっていました。

 これらの部分は、深い思考や内省、行動抑制、社会的な感情の処理などを司るところです。つまり、内向型の脳のほうが、より深く考える能力が高いことを意味しています。一方で外向的な人はこれらの皮質が薄くなっていることから、あまり深く考えずに、とにかく行動してみようとする傾向が考えられます。

 他の研究でも、内向的な人と外向的な人の脳の血流量を調べたところ、内向型の人は前頭前野と視床前部の血流量が多かったそうです。

 特に前頭前野は、計画を立てたり、学習に関する論理的思考を司ったりしています。外向性が高い人は曖昧に話す傾向にあり、内向性が高い人は具体的に話す傾向が知られていますが、これはもしかすると、前頭前野の発達の違いからきているのかもしれません。

 よく内向性が突出した人のことを「オタク」と呼ぶことがありますが、自分が大好きなフィギュアやアイドル、鉄道の話になると、専門用語をフルに使って流暢に語るシーンを見たことがないでしょうか。これはまさに前頭前野が発達している証拠なのかもしれません。

 また飲み会でお酒を注文するときに、外向性の高い人は「何でもいいので、料理に合う美味しいワインありますか?」と曖昧に聞いてしまう傾向にあります。一方、内向性が強い人は「フルボディでバランスのとれた赤ワインはありますか?」と聞くことが多かったりします。

 内向型は、外向型よりも「前頭前野」が発達しているため、思考が深いことが特徴といえます。外向型は曖昧に話し、内向型は具体的に話すというのも納得です。

 ですから、外向型の人は、よくも悪くも深く考えすぎない傾向があります。逆に「まあ、いっか!」とすぐに気持ちを切り替えることができるのは、外向型のメリットです。また、外向型は行動に移す脳の部分(運動野)の処理が速いため、テキパキと行動できるのも特徴です。

 内向型は行動に移す処理は遅いですが、外からの情報を内部で処理するスピードが速いため、動く前にいろいろと深く考えるのも特徴です。

 それは「深い思考力・洞察力」という長所にもなり得るのです。

 一方で外向性が高い人たちが優れた脳の部分も研究されています。具体的にはこんな部分が活性化しやすいことがわかってきました。

 外向性の高い人 → ドーパミン報酬系が活性化しやすい

 つまり、外向型は外側の報酬に対して敏感に反応しやすく、ドーパミンが出て大きな快感を感じやすい人たちです。お金持ちになりたい、社会的な地位を得たい、偉くなりたい、ブランド品など高級品やサービスが大好き、異性にモテたいなど、外側の報酬により魅力を感じやすいタイプとも言えるでしょう。

 一方で、内向性が高い人は外側に報酬があっても大きな快感を感じないため、お金や地位や名誉、物欲などにそこまで興味がなかったりします。

 内向型は、プレゼントをもらってもリアクションは派手ではありませんが、決して嬉しくない訳ではありません。すごく嬉しいというよりも、たんたんと嬉しいという感じでしょうか。内向性100%の人がもしいるとしたら、プラスでもマイナスでもなく、ニュートラルな状態に近いと言えるでしょう。

※本記事は『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』西剛志(ダイヤモンド社)より抜粋したものです。