文章を書くことを仕事にしたことで、大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。

【成功者の言葉】五感で会社を感じてみるPhoto: Adobe Stock

インターネットで得られる情報は限られている

 世の中には転職のチャンスを見事につかむ人がいます。先にも触れたように、成長著しい携帯電話業界やインターネット業界に、黎明期に飛び込んだ人たちもそうでしょう。まだ未来は海の物とも山の物ともわからない。でも、積極果敢に飛び込んで、成長だったり、ポジションだったり、報酬だったりという果実を得た。偶然を直感的に捉えて、仕事人生の転機を作っていったのです。

 外資系企業という選択肢を、早くから選んだ人たちもいます。今では超人気になっているマッキンゼーやボストン コンサルティング グループに、30年も前に入社していた人たちがいるのです。

 今では外資系企業は各界で活躍していますが、当時はまだ従業員は数人、数十人という時代。なぜ、彼らはそんな選択ができたのか。今のような未来が待っているなど、何の保証もなかったのに、です。

 知人に誘われて、後に上場するようなベンチャーに入っていく人もいる。逆に誘われて入社したけれど、会社が倒産の憂き目に遭う人もいる。私自身が後者でしたから、前者の人たちにはとても興味がありました。だからベンチャー企業の社員に取材に行くと、なぜ決断できたのか、よく聞いていました。

 将来を計算することなどできません。優秀な人たちとて、「絶対に成長するはずだ」と確信して選んだわけではないでしょう。では、なぜ選べたのか。それこそ、直感だったと思うのです。

 こっちに行ったほうがいい。いいような気がする。自分に合っているかもしれない……。そういう空気を敏感に感じ取って、決断した。となれば、大事なのは、そうした直感力であり、感じ取る力なのです。

 かつて、フランス人の音楽家、フランソワ・デュボワさんの書籍制作をお手伝いしたことがあります。彼は音楽家である一方、当時、大学で学生向けにキャリアのアドバイスもしていました。

 私が強い興味を持ったのは、彼が「五感を使え」というアドバイスをしていたことです。インターネットで会社や業界の情報を集めることも大事。しかし、そこから見えてくることは極めて限られる。そんなことより、会社に行ってみなさい、先輩に会ってみなさい、と。

 例えば、会社はどこにあるか。それだけでも会社の雰囲気をつかむことができます。大企業ひしめくオフィス街なのか。飲食店も多い繁華街のような街なのか。都市部からは少し離れた静かなところにあるのか。そして、自分はどこに会社があれば心が落ち着くのか。

 エントランスにも、会社の個性は表れます。広いスペースがあって、ひっきりなしに来客があるような会社なのか。それとも小さなスペースに受付電話だけがある会社なのか。どちらが自分に馴染みそうか。

 先輩社員に会ってみたら、もっといろいろ見えてきます。人に会った瞬間にいろいろ感じることが誰にでもあるはずです。この人はウマが合いそうか。友達になれそうなタイプか。ちょっと違うのか。

 こういうことを、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、時には味覚の五感で判断しろ、とアドバイスしていたのです。

※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。