「数字の意味を的確に伝えるには、イメージしやすい尺度を用いよう」。スタンフォード経営大学院教授のチップ・ヒース氏はそう言います。
「ただの数字」を「感情を動かす数字表現」に変える文章術をbefore→after形式で100以上伝授する新刊『数字の翻訳』から、野生動物の速さを実感するために、ウサイン・ボルトと比較してみた例を紹介します。(構成/今野良介)
チンパンジーとボルトの競争にサイが乱入
数字の意味を的確に伝えるには、「イメージしやすい尺度」を用いるといい。
動物の速さに関する科学的事実を例に挙げてみよう。
野生動物の速さを実感するために、人類最速のウサイン・ボルトを尺度にする。
史上最速の人間は、平均的なオリンピック選手も真っ青の速さだ。平均的なオリンピック選手は決勝に出られない。決勝に進めるのはトップ中のトップのアスリートだけだが、記録を塗り替えたときのボルトは、その中でも群を抜いて速かった。
まずは、ボルトを平均的な野生動物と競わせてみよう。
・セレンゲティ国立公園の異種間オリンピック競技で、100m走最速の動物を決めるとしましょう。助走をつけて全速力でスタートします。人類代表は、4×100mリレーのアンカーで100mを8秒65で走った記録を持つ、ウサイン・ボルト。このときの100mの平均速度は時速42kmでした。
・チンパンジー代表は、その辺にいるチンパンジーです。後ろ足が短く、4足で走りますが、ボルトよりわずか3.35m遅れて8秒95でフィニッシュします。100mを走る間時速40kmを維持します。
・でもボルトもチンパンジー代表も、突然紛れ込んできたクロサイにはかないません。クロサイは100mを時速55kmで走り、ボルトを24m離して6秒55でゴールを切ります。
・人類史上最速のウサイン・ボルトは、クロサイとチンパンジーとの100m走では銀メダルしか取れません。サイより2秒も遅れてゴールインします。そして、動物にはまだまだ上がいます。ダチョウ、チーター、それに鳥を入れるならハヤブサも、サイよりずっと速いのです。
動物の走る速さは科学の本や動物園の看板に書かれているが、人類最速の男と比べてみて初めて腑に落ちる。
世界に900万人いる競技走者中の最速の人間でさえ、平均的なチンパンジーよりかろうじて速く、サイを捕まえるにはほど遠い。しかもこれらの動物でさえ、最速の動物ではないのだ。
このように、本当に興味深いデータは、ただ情報を伝えるだけでなく、常識を覆す。
『数字の翻訳』では、このような「ただの数字」を体感的に理解し、伝える方法について、100以上の具体例で伝えていく。
(了)
※本記事は書籍『数字の翻訳』の一部を元に編集しています。