
今年、パナソニック ホールディングスの津賀一宏会長が退任した。同氏は2012年に社長に就任すると、プラズマディスプレーや個人用スマートフォンからの撤退を決めた一方で車載電池事業を育てるなど、大胆な「BtoBシフト」を推し進め、当時苦境に陥っていたパナソニックを復活させた。ダイヤモンド編集部は、構造改革真っただ中の13年に津賀氏を直撃していた。そこでは“脱家電”を打ち出し、デジタル家電に代わる「二つの成長分野」を掲げている。津賀氏の発言は、パナソニックが再び構造改革に着手した現在でも非常に示唆に富むものだ。特集『パナソニック 正念場』の#12では、当時のインタビューを再配信する。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
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「家電メーカー」という固定観念を捨て改革を断行
その中で、ひそかに徹底していた「リスク管理」の神髄とは
――パナソニックがテレビメーカーの看板を捨て、あえて“脱家電”にかじを切ろうとしているのはなぜなのでしょうか。
かじを切るも、切らないも、当社におけるBtoB(企業向けのビジネス)事業の比率は、半導体などデバイス事業も入れると、2012年度で7割を超えています。いわゆる家電製品を一般のお客様にお売りしている比率は二十数%なんですね。
ところが、当社のマネジメント層には「家電メーカーである」という意識が色濃く残っています。これだけB toB事業がありながら、家電を主体にした進め方、考え方はやっぱり効率的ではない。
それじゃ、BtoB事業とBtoC(一般消費者向けのビジネス)事業を分けたらいいやないか、という考え方もあります。
今回、会社を四つのカンパニーに分けましたが、議論の中にはBtoCの会社を一つにまとめてつくったらという話も出ました。出ましたけれども、結果、これはうまくいかなかった。
それに家電とBtoBビジネスの間に明確な線を引きたくなかった、という思いも大きくありました。
われわれの根っこやお客さまのイメージとしてはやっぱり「家電の松下」があるんです。その根っこをうまく維持しながら、BtoBにシフトする。
――BtoBへの業態転換は、パナソニックが昔から言っている。本当に実現するのでしょうか。
私が入社した山下俊彦社長の時代は、すでに家電ビジネスが少し陰りを見せていた、というのは事実です。
当時もやっぱり「総合エレクトロニクスメーカー」への脱皮と言っていたんです。今流に言えばコンピューター関連事業へのシフトだったり。いろいろありましたけど、われわれはシフトできませんでした。
私は、それはブランドへのこだわりが原因だったんじゃないかと思うんです。
国内は「ナショナル」、米国は「パナソニック」や「クエーザー」などいろいろなブランドがあり、音響系の「テクニクス」とかいうのもあった。で、うちの会社はやっぱりブランドを付けた商品への思いが大変強いんです。
逆に言えば、BtoB事業の中でも、特にOEM(他社ブランドによる製品供給)事業と呼ばれるものは、「志が低い事業」とまでいわれた時代があるんです。パナソニックのブランドで勝負できないからやるんだ、と。
うちは「OEM」という言葉が嫌いな会社です。どちらかというと、ブランド事業の“下”にくる。それもかなり、下に。
――津賀さんは、それを“下”に見てはいないと。
08年4月、自動車向け製品を手掛けているオートモーティブ社の社長になりました。カーナビゲーションでは「ストラーダ」とか自社ブランドもやっていますが、主体はOEM事業だったんです。
ところが同年に大坪(文雄前社長)が、社名もブランドも全てパナソニックに統一した。そのときから弊社の作ったカーナビは、OEM製品も全てパナソニックのカーナビですよと訴求できるようになりました。
これによって、パナソニックブランドを維持することは会社全体の役割で、ブランド商品に必ずしも強いこだわりを持たなくてもいい――。こういう気持ちに変わったんです。これは私にとって大転換でした。
例えば、航空機用のエンターテインメントシステムを納めているアビオニクス事業があります。これはパナソニックの商品ですが、航空会社さんに納入するものなんですね。
全日本空輸さん、エミレーツ航空さん、シンガポール航空さん、彼らの商品を一緒にやらせていただいている。これがBtoB事業にとっては非常に重要です。
利用客の皆さんのモニターには「Panasonic」ってロゴが出てきてほしいです。けれども、出てはきません。ブランド名が付いていなくても、お客さまのお役に立っているものは、どんどん持ち上げていきます。
――中期経営計画では事業部に営業利益率5%という“生存ルール”を課しましたが、テレビなどのデジタル家電は過去にクリアしたことがないのでは。
それは皆さん、大きな間違いをされていますね。
次ページでは、当時改革の陣頭指揮を執っていた津賀氏が「リスクシナリオ」の神髄を開陳するとともに、「二つの成長分野」を明かす。事業構造に大胆にメスを入れた同氏は「今年が勝負」と位置付け、「既存の価値観をつぶしていかなアカン」と言い切っていることも興味深い。現在、再び正念場を迎えているパナソニックでは、津賀氏が問題視していた“価値観”は打破されているのだろうか。