インドの中間40%層の所得伸び悩みは経済成長力の問題だけでなく、所得格差拡大による面が大きい。90年から22年にかけて全体の所得は219%増加したが、中間40%層は109%の増加にとどまった。一方、上位10%層の所得は429%増加した。

 今後のインドの成長率と所得格差の変化という二つの変数についてさまざまな想定を組み合わせてシミュレーションすると、かなり高めの経済成長を実現できても格差是正が進まない限り中産階級の拡大は限定的との結果が得られる。

 ただ、インドで所得格差の是正が進む見込みは当面小さい。中国の経験を見ても、インドで遅れている都市化が進めば所得格差の是正につながるが、それだけでは限界がある。低所得層に向けた所得再分配や社会保障の整備など取り組むべき政策課題は多い。

 それでも中産階級を育てることは重要だ。中産階級の拡大は国内消費市場を拡大させ、輸出や投資と並ぶ成長の柱を確立する。また、より良い教育や高スキルを身に付ける機会が増えれば、長期的に生産性が向上し潜在成長力が底上げされる。インド経済が本格的に離陸するためには、所得格差の是正こそ避けては通れない関門である。

(オックスフォード・エコノミクス 在日代表 長井滋人)