
長井滋人
高関税で製造業を取り戻すというトランプ大統領の主張は世界経済に波紋を広げている。米国では関税戦争の沈静化を受け、金融市場に一定の落ち着きが戻りつつあるものの、政策の方向性として「関税強化路線」が後退したわけではない。むしろ戦略産業を中心に関税の恒常化・強化が続く中、製造業のリショアリングを本気で推し進めようとするトランプ政権の意図が明確になりつつある。本稿では、米国の製造業の現状を多角的に分析し、関税政策の有効性と限界を検証するとともに、高関税によって製造業の雇用機会を取り戻すという目標が、労働コストの高さや国際分業の現実といかに乖離しているかを読み解く。

実態把握の難しい中国の対外資産、米国債保有額の減少は、必ずしも「ドル資産離れ」を意味しない
トランプ米政権が基軸通貨ドルへの信頼を揺るがす中、投資家のドル資産離れに注目が集まる。4月の米国債市場暴落時には、世界最大の外貨準備を誇る中国が米国債売りを仕掛けたとの観測も混乱を助長した。

インフレが一時的に減速する中、米国内では早期利下げへの期待が高まっている。しかし、その裏側では「関税インフレ」が静かに育ちつつある。本稿では、ガソリンや食品価格の一時的な下落に隠れた関税の物価押し上げ効果に着目し、その波及メカニズムや価格転嫁の不確実性を解説するとともに、企業の収益マージン、サプライチェーンの混乱、為替動向、さらにはインフレ期待の形成など、FRBが直面する多層的なリスクに迫る。また、今後の物価上昇が一過性で収まるのか、それとも持続的なインフレにつながるのか、鍵を握るシナリオを分析する。

ドル安誘導の観測が燻る中、米国の為替政策が国際金融秩序を揺るがすリスクが浮上している。関税だけでは解決できない貿易赤字に対し、トランプ政権がドル政策にまで踏み込む可能性がある。市場に与える影響や通貨覇権国としての責任放棄の懸念など、変容するドルの行方を考察する。

米AI投資の持続性を脅かす高い輸入依存度、トランプ関税戦争がリスクに
米国におけるAI関連投資の勢いが止まらない。データセンターや半導体工場のための構造物の建設に加え、コンピューターとその周辺機器への投資も2022年以降の機械設備投資の増加の3分の1を占める勢いだ。一方でAI関連投資による米国の国内総生産への寄与はさほどではない。

米中間の関税戦争が再燃するなか、アジア新興国は経済成長と製造業の空洞化という二律背反に直面している。中国の輸出シェアが縮小する中で、アジア諸国の対米輸出が拡大しているが、国内への恩恵は限定的であり、むしろ中国製中間財への依存が強まり、自国経済の付加価値創出力は低下している。輸出増が必ずしも国内経済の自立性や成長に繋がらない構造的な問題が、地域経済に静かに影を落としつつある。アジア各国の輸出構造の変化や対中依存の実態、中国企業の浸透による影響、そしてトランプ政権下で高まる関税リスクが新興国経済に及ぼす複雑な影響について具体的なデータとともに検証する。

ユーロ圏の景気停滞が長引いている。2023年は0.5%、2024年は0.7%と低成長が続き、2025年も0.9%にとどまる見込みである。ウクライナ戦争によるエネルギー価格の上昇や欧州中央銀行(ECB)の利上げが景気の重しとなる中、ユーロ圏の中核国であるドイツやイタリアの製造業が深刻な不振に陥っている。トランプ政権の関税政策と中国製造業の台頭という二重の圧力もユーロ圏経済の回復を妨げる要因となっている。ユーロ圏経済の現状を整理し、製造業不振の背景を分析するとともに、トランプ関税と中国製造業の成長が欧州経済に与える影響を検討し、今後のユーロ圏の景気動向について考察する。また欧州経済の停滞が世界経済秩序に与える影響についても掘り下げていく。

買い替え支援措置に頼る中国政府の消費回復策は限界、鍵を握る家計マインドの回復
中国の国債金利が日本の金利を下回るなど、日本が経験したような長期停滞とディスインフレ基調に中国経済が陥るリスクは高まっている。

トランプ大統領による関税政策が本格化しつつある。米国の貿易赤字是正を目的としつつも、交渉のカードとして活用される関税措置は、経済・政治の両面で極めて大きな影響をもたらすだろう。しかし、その効果と副作用のバランスはどうなるのか。高関税が米国の貿易収支を本当に改善するのか、そして国内の成長や物価にどのような影響を及ぼすのか。オックスフォード・エコノミクスの経済モデルによるシミュレーション分析を基に、特定の国や製品に限定した関税政策と、すべての貿易相手国に一律に適用する関税措置の違いを比較し、トランプ関税が米国経済や世界市場に与える影響を詳しく解説する。

トランプ政権の経済政策は、米国の独り勝ちをもたらすのか、それとも世界経済に新たな不均衡を生むのか。オックスフォード・エコノミクスの経済モデルを基に、財政拡張、高関税政策、移民制限という三大要素が米国経済やグローバル投資に与える影響を詳細に分析し、市場を揺るがす不確実性が生むリスクとチャンス、そして予測の裏に潜む重要な洞察を解説する。

トランプ氏圧勝の主因はコロナ禍以降の高インフレ、低所得者層に打撃
接戦予想を覆す一方的な展開になった米国大統領選挙。この結果は、予想以上に大きかった現政権への不満が主因とみている。移民流入がもたらす社会不安もあるが、それ以上にコロナ禍以降の高インフレへの不満が鬱積していた。

米国経済の先行きを巡る悲観論が急速に後退している。米連邦準備制度理事会(FRB)は9月に予想を上回る利下げを決めたが、市場が織り込む今後の利下げペースはかなり緩やかだ。悲観論が後退している背景として雇用・消費の改善などを指摘し、9月下旬に改定された過去数年分のGDP(国内総生産)の大幅上方改定が、米経済の「底堅い成長」の構図を示していることを解説する。

中国の国内需要の停滞に歯止めがかからず、5%前後という今年の成長目標達成に黄信号が灯る。金融緩和は小出しで財政政策においても過去の経済危機で救世主となったインフラ投資はボリューム感に欠ける。9月下旬に突然公表された一段の金融緩和は当局の焦りを示す。中国経済停滞の背景に「新たな成長モデル」の問題を指摘するとともに、個人消費主導の成長を遂げるために必要な改革案を大胆に提示する。

移民対応が米大統領選の争点、過度の移民制限は経済的なダメージが大きい
米国大統領選挙でのトランプ氏への高い支持率の背景にあるのが、近年の移民急増に対する社会的な不満の高まりだ。米国議会予算局が年初に公表した推計では、米国への移民流入は2022年に260万人、昨年は330万人と、10年代の平均90万人と比べて急増した。

世界貿易の趨勢的な伸び悩みが続いている。世界各国の財輸入(実質ベース)は、コロナ禍による大幅減と反動増という振幅が収まった後、小幅ながらマイナス基調が続いている。世界貿易停滞の原因を景気循環だけでなく、所得弾力性の低下という構造的な要因からも読み解き、所得弾力性が低下している理由として経済グローバル化の一服や貿易障壁の増加を解説。その上でトランプ前米大統領が再選した場合の米国の保護主義の高まりというリスクを指摘する。

米欧中央銀行の今後の利下げペースを巡る不確実性は相変わらず。市場は毎月の物価・賃金指標で一喜一憂する状況が続く。ここまで個々の経済指標が注目されるのは、中央銀行が物価や賃金の落着きをデータの実績で確認しないと動かないという極めて慎重な政策運営姿勢を貫いているためだ。中央銀行が「データ次第」で政策運営を続ける理由を整理するとともに、今後の中央銀行が経済予測に基づく政策運営に回帰していくことを警告する。

金融市場は利下げが先延ばしされるリスクで頭が一杯のようだ。FRBが物価安定に万全を期すために、引締めの手を緩めない構えを続けており、米雇用統計も堅調な結果を示している。米雇用は経済指標が示す表面上の結果ほど実際は強くないことや、米雇用に構造変化が生じている可能性を紹介し、FRBが今後、金融政策の転換時期と市場との対話という2つの難問と戦うことを指摘する。

インドの消費市場拡大を阻む中産階級の発展の遅れ、経済発展の鍵を握る格差是正
成長に陰りが見える中国に代わって、同じく14億人の人口を抱えるインドが世界経済に巨大な消費市場を提供することへの期待が高まる。ただ、消費をけん引する中産階級の発展は中国と比べて極めて遅れている。

米大統領選が近づき、トランプ氏が再選するリスクが意識されている。第2次トランプ政権が取り得る各種政策を基に2つのシナリオを策定し、経済モデルから得られた今後数年間の米経済の行方を紹介するとともに、米経済に大きな影響を与える”移民政策”の変化が米経済に与えるインパクトを解説する。

世界経済はソフト・ランディングとなる蓋然性が高まっているものの、その後は世界貿易の減速を主因に勢いがつかない状況が見込まれている。世界貿易が減速する背景に貿易障壁と各国の産業政策があることを解説するとともに、中国のデフレ輸出とトランプ氏の米大統領再選が世界貿易の悪化を加速させる恐れを指摘する。
