20年前は14万円!歴史的円安の今年は……

 現在開催中のツール・ド・フランス2024を取材する際に重要な機材は3つ。パソコン、通信環境(スマホ)、そして足となるクルマだ。このうちクルマだけが現地で用意することになるのだが、いっそのこと買ってしまえと考えた。

 フランスの自動車メーカー、プジョー、ルノー、シトロエンにはそれぞれ短期滞在の外国人が免税で新車を購入でき、帰国時に買い取ってくれるシステムがある。プジョーなら「オープンヨーロッパ」、ルノーなら「ユーロドライブ」だ。欧州では日本のような「新しいモノ主義」がないので、ちょっと乗り回したくらいの中古車を購入する人たちが多い。だから外国人に安く買わせて中古車として下取りをして売るという商売が成り立っている。

 これが実に便利で快適なのだ。ボディカラーは指定できないが、好きな車種や仕様を選べる。これまでに購入したのは25台。コロナ禍の2020、2021年は現地入りを断念していて、2022年は世界的な半導体不足で新車が提供できないと連絡があり、この1年だけレンタカーにした。でも自分名義の車検証と真新しい車両は、あたかもフランスに居住しているかのような心地よさを与えてくれる。

 17日以上、6カ月以内というルールもあって、外国人旅行者や駐在員が利用するのだが、日本ではほとんど知られていない。ネットで申し込むことができ、利用者は購入金額と売却金額の差額を支払えばいい。銀行振り込みが原則だが、日本からの送金は手間がかかるので、お願いすればクレジットカード払いにしてくれる。ツール・ド・フランス取材とその前後で26日間乗り回して、20年ほど前はルノー・メガンヌで14万円。2024年は1ユーロ170円超の為替相場に翻弄され、支払額は25万円になってしまった。

 利便性はレンタカーを上回る。税金は当然免除。保険は追加料金なしでフルカバーされる。たとえばシャルルドゴール空港を納車・返却場所にすれば、ターミナルに送迎してくれるので、重い荷物を引きずって移動することはない。海外の主要都市まで安価で陸送もしてくれる。フランス国内なら輸送コストはかからないが、納車・返却場所は10カ所ほどしかない。今回、イタリア開幕なのにニース入りしたのは、ニースでクルマを受け取る必要があったからだ。

 かなり激しくぶつけても返却時にとがめられることはない。故障した場合はフランスのどんな町にもあるメーカーの修理工場に持ち込めば無償修理してくれる。24時間態勢で緊急アシスタンスサービスもある。ところが唯一注意しなければならないこと。レンタカーと違って故障しても別のクルマに交換してくれない。自分名義のクルマなので修理が終わるまで待たなくちゃいけないことだ。

 2000年の取材途中にボクの新車が乗り始めて6日目に燃料漏れを起こした。最寄りの修理工場で点検した結果、「エンジンに亀裂が入っているので修理に4日かかる」とのこと。仕方ないので4日間は無償提供されたレンタカーを乗り回し、約束の日にボクだけ800kmを引き返すことになったとき、「ツール・ド・フランスから脱落する」というさみしさがこみ上げた。

ツール・ド・フランス2024 第2・3ステージ

 イタリアのエミリアロマーニャとピエモンテ地方を舞台としたツール・ド・フランスの序盤戦3日間。第2ステージではアルケアB&Bホテルズの23歳、ケビン・ボークラン(フランス)が逃げ切り、総合優勝候補のタデイ・ポガチャル(UAEエミレーツ、スロベニア)が首位に。

 平坦区間の第3ステージではアンテルマルシェ・ワンティのビニヤム・ギルマイ(エリトリア)がスプリント勝利。

 総合成績では2日間とも4選手がタイム差なしで並んだが、これまでの区間順位の合計が最も少ないEFエデュケーション・イージーポストのリチャル・カラパスが首位に。エクアドル勢として初めてマイヨジョーヌを獲得した。

 ツール・ド・フランス4日目はいよいよイタリアを離れる。選手は峠越えだが、取材陣などはアルプス山脈直下のフレジュストンネルを使ってフランス入りする。全長12.8km、通行料金は乗用車で片道55ユーロ(約1万円)。暗いトンネルは圧迫感があって緊張する。かつて利用したときは入り口で料金を支払った際に冊子を手渡された。それを助手席に放り投げて、後続車両が後ろにつかないように前を走る車両に張りついて、ハンドルを握りしめて走った。

 トンネルを通過して、ゴール地点のプレスセンターで捨てようとした冊子を見たら「速度制限は70km、車間を150m空けるのがルール」と案内されていた。トンネルの壁に車両間隔を示すランプがついていて、それが目安になるようだ。

 ツール・ド・フランス第4ステージ。これだけ早くアルプスの山岳ステージが始まったことは自分の経験上ない。すでに総合優勝争いは本格化。2024年は初日から面白い展開となり、もう目が離せない。