「人を育てる」とはどういうことか。コンサルタントとして1万人以上のビジネスパーソンと向き合ってきた安達裕哉氏(『頭のいい人が話す前に考えていること』)が、いま最も知りたいと語るスキルがある。「ほめる」ことだ。評価を下すのではなく、相手を伸ばす――その道を極めたのが、手書きのメッセージで全国の小学生を励まし続けてきた進研ゼミの「赤ペン先生」である。本連載では、赤ペン先生の全国代表を務める佐村俊恵氏(『57年間、9200万人の子どもを励まし続けた赤ペン先生のほめ方』)を安達氏が訪ね、その「ほめ方」の極意をひもといていく。(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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勉強の「ごほうび」として勉強をわたす
安達裕哉(以下、安達) 前回は、なかなか勉強に取り組もうとしない子のやる気を引き出す声かけについてうかがいました。逆に、できる子の力をもっと引き出す声かけというのもあるのでしょうか?
佐村俊恵(以下、佐村) できるお子さんであればあるほど、もっと力をつけてほしいと思うのが親心なので、その子が課題を終わっていても、「時間があるんだったら、この問題もやってみたらどう?」みたいに勧めがちだと思うんです。ですが、子どもにしてみたら、頑張って早く終わらせたのに、「これもやったら?」とぞんざいに課題を足されるのは苦行でしかないですよね。
安達 それはそうですね。
佐村 そういうときは、出し方を変えるのが大事かなと思います。ただ課題を付け足すのではなく、ゲームをクリアしたときに現れるボーナスステージのような感覚で「あなたならもっと難しい問題も解けるよね。次もワクワクするような問題を出すから、挑戦してみたらどう?」と。「いまできたこの問題、数字を変えても解けるかな?」みたいに、子どもが「じゃあ、やってみよう」と思える提案をするといいですね。
安達 「課題の付け足し」ではなく「ごほうび」として渡す。同じ「追加の一問」でも、出し方によって意味が変わってくるわけですね。そういえば、うちの下の子が一年生で、いますごく好きな理科の漫画があるのですが、「勉強終わったら読んでいい?」って言うんですよ。中身は理科の学習漫画なのに、本人にとっては勉強じゃない。完全にごほうびなんですよね。
佐村 まさに、それです。やらされる勉強とごほうびの勉強は、子どもにとってはまったく違うものなんですよね。
賢い子には、より多くの「選択肢」を見せる
安達 赤ペン先生としては、できている子の答案に対して、さらなる成長を促すためにどんな声かけをされているんですか?
佐村 正解の要件は満たしていても、まだ向上の余地があることはありますよね。たとえば国語の記述問題で、言葉の選び方が少し不自然だったり。あるいは考え方がちょっと独特だったり。そういうときは「先生ならこう書くかな」「先生はこう考えたよ」という伝え方で、別の切り口の回答を示したりしますね。
安達 正解・不正解ではなく、いくつかの選択肢が存在することを、客観的に知らせるんですね。
佐村 そうですね。できるお子さんであればあるほど、切り口はたくさん知っておいたほうがいい。「あなたの回答もすばらしいけれど、こういう考え方もできるよね」と。算数でも、もっと効率のいい解き方があれば、「こう解くと、もっと面白くなるよ」と伝えたりします。
安達 それはある意味、子どもにとっての世界を広げてあげることですね。たまに先生が「教科書とは違うんだけど、ちょっと面白い話をしてやるよ」と教えてくれるような。
佐村 そういう話ほど、頭の深いところに残るんですよね。
「今日はいつもと違うことをするよ」のパワー
安達 それで思い出したんです。私が小学生のときの教頭先生が、すごくいい先生で。たまに担任が休むと代わりに授業をやってくれたんですが、あるとき「今日はいつもと全然違うことをするから」って言うんですよ。
佐村 それだけでワクワクしますね。
安達 それで先生が、「街を見れば、方角がわかる」と言うんですね。「さあ、どっちが北で、どっちが南だ?」と。僕らは、もちろんわからない。でも先生は「知らない街に行ってもわかる」と言う。種明かしは「ベランダを見る」ことなんです。たいていの家は南側にベランダがついているから、それを見れば南がどっちかわかる、と。この話、いまだに覚えているんですよ。
佐村 本当に素敵な先生ですね。「今日はいつもと違うことをするよ」――もう、その言葉だけで、子どもの心は動きますよね。何が始まるんだろう、って。
安達 うまい先生だったなと、いまになって思います。エレガントな解き方を教える、というさっきのお話とどこか通じる気がして。正解を一つ覚えさせるのではなく、世界の見え方を一つ増やしてくれた。
佐村 子どもの可能性を広げるというのは、きっとそういうことなんでしょうね。
生きて、答案に向かえることの、かけがえのなさ
安達 連載を締めくくるにあたって、最後に一つうかがいます。佐村さんが赤ペン先生を20年以上やってこられて、どうしても忘れられない、という答案はありますか。
佐村 ……一枚、あります。心が痛むお話なんですけれども。初めて、亡くなったお子さんの赤ペンを採点したことがあるんです。
安達 亡くなったお子さんですか。
佐村 おうちの方から、退会のご連絡と一緒にお電話があったそうです。「明日出そう」と言っていた赤ペンが、結局、出せないままになっていた。「提出しますけれども、見ていただけますでしょうか」と。
安達 それを、佐村さんが見ることになったんですね。
佐村 会ったこともないお子さんでしたが、添削しながら涙が出てきてしょうがなかったですね。私たちはいつも、その子の未来に対して励ましの言葉をかけるんです。「これからのあなたのがんばりを応援しているよ」と。でも、その言葉をかけられない。そのとき思ったんです。生きて、元気で、答案に向かえること。その答案が、たとえ白紙のままであっても、それがどれほど素晴らしいことか。本当に、そう感じましたね。
安達 本当にそうですね。
佐村 子育てをしていると、おうちの方もやっぱり迷われることはたくさんあると思います。でも、迷うということは、お子さんに寄り添っている証拠ですよね。お話の中でも何度かお伝えしましたが、やはり子どもというのは、勉強ができるようになりたいという気持ち以上に、自分を見てくれている人、見守ってくれている人に喜んでもらいたい、認めてもらいたいという気持ちが大きい。だから、その気持ちに寄り添いながら、常に応援する気持ちで声かけをしていただければと思います。本当に、日々いましかない時間ですから。
安達 佐村さん、今日は本当にありがとうございました。



