ツール・ド・フランス取材歴30年の筆者は、大会の度に新車をフランスで購入してきた。その数、25台!一体なぜそんなことが可能なのか。"外国人"だからこそ使えるお得すぎるシステムを紹介する。車好きも必見の現地レポートをお届けする。さらに、フランス国内を毎年5000kmを走破する筆者が感じた「フランス人ドライバーたちの優しさ」を語った。日本では横断歩道で車に道を譲ってもらえないことがあるが、フランスでは車が止まるのが当たり前だ。日本では邪魔者扱いされがちなサイクリストにもフランス人ドライバーたちは優しい。(文/スポーツジャーナリスト 山口和幸)
フランスで新車25台を購入した男の裏ワザ
イタリアのエミリアロマーニャとピエモンテ地方を舞台としたツール・ド・フランスの序盤戦3日間。第2ステージではアルケアB&Bホテルズの23歳、ケビン・ボークラン(フランス)が逃げ切り、総合優勝候補のタデイ・ポガチャル(UAEエミレーツ、スロベニア)が首位に。
平坦区間の第3ステージではアンテルマルシェ・ワンティのビニヤム・ギルマイ(エリトリア)がスプリント勝利。
総合成績では2日間とも4選手がタイム差なしで並んだが、これまでの区間順位の合計が最も少ないEFエデュケーション・イージーポストのリチャル・カラパスが首位に。エクアドル勢として初めてマイヨジョーヌを獲得した。
ギルマイやカラパスの活躍ぶりを取材する際に重要な機材は3つ。パソコン、通信環境(スマホ)、そして足となるクルマだ。このうちクルマだけが現地で用意することになるのだが、いっそのこと買ってしまえと考えた。
フランスの自動車メーカー、プジョー、ルノー、シトロエンにはそれぞれ短期滞在の外国人が免税で新車を購入でき、帰国時に買い取ってくれるシステムがある。プジョーなら「オープンヨーロッパ」、ルノーなら「ユーロドライブ」だ。欧州では日本のような「新しいモノ主義」がないので、ちょっと乗り回したくらいの中古車を購入する人たちが多い。だから外国人に安く買わせて中古車として下取りをして売るという商売が成り立っている。
これが実に便利で快適なのだ。ボディカラーは指定できないが、好きな車種や仕様を選べる。これまでに購入したのは25台。コロナ禍の2020、2021年は現地入りを断念していて、2022年は世界的な半導体不足で新車が提供できないと連絡があり、この1年だけレンタカーにした。でも自分名義の車検証と真新しい車両は、あたかもフランスに居住しているかのような心地よさを与えてくれる。
17日以上、6カ月以内というルールもあって、外国人旅行者や駐在員が利用するのだが、日本ではほとんど知られていない。ネットで申し込むことができ、利用者は購入金額と売却金額の差額を支払えばいい。銀行振り込みが原則だが、日本からの送金は手間がかかるので、お願いすればクレジットカード払いにしてくれる。ツール・ド・フランス取材とその前後で26日間乗り回して、20年ほど前はルノー・メガンヌで14万円。2024年は1ユーロ170円超の為替相場に翻弄され、支払額は25万円になってしまった。
利便性はレンタカーを上回る。税金は当然免除。保険は追加料金なしでフルカバーされる。たとえばシャルルドゴール空港を納車・返却場所にすれば、ターミナルに送迎してくれるので、重い荷物を引きずって移動することはない。海外の主要都市まで安価で陸送もしてくれる。フランス国内なら輸送コストはかからないが、納車・返却場所は10カ所ほどしかない。今回、イタリア開幕なのにニース入りしたのは、ニースでクルマを受け取る必要があったからだ。
かなり激しくぶつけても返却時にとがめられることはない。故障した場合はフランスのどんな町にもあるメーカーの修理工場に持ち込めば無償修理してくれる。24時間態勢の緊急アシスタンスサービスもある。ところが唯一注意しなければならないこと。レンタカーと違って故障しても別のクルマに交換してくれない。自分名義のクルマなので修理が終わるまで待たなくちゃいけないことだ。
2000年の取材途中にボクの新車が乗り始めて6日目に燃料漏れを起こした。最寄りの修理工場で点検した結果、「エンジンに亀裂が入っているので修理に4日かかる」とのこと。仕方ないので4日間は無償提供されたレンタカーを乗り回し、約束の日にボクだけ800kmを引き返すことになったとき、「ツール・ド・フランスから脱落する」というさみしさがこみ上げた。