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社会人として働いていれば、「もっと仕事ができるようになりたい」と一度は思ったことがあるだろう。また、部下を指導していて「もっと仕事ができるようになってほしい」と願うケースもあるのではないか。仕事ができるようになるためには、ただがむしゃらにやればいいというものではない。仕事力の向上に必須の能力として、メタ認知能力、認知能力、非認知能力の基礎の三つを挙げることができると私は考えている。前回はメタ認知能力を取り上げたので、今回は認知能力について考えてみたい。(心理学博士 MP人間科学研所代表 榎本博明)

妙に、顧客や取引先とのトラブルが多い人

 どの職場にも、揉めごとの多い従業員がいるものである。客としょっちゅうトラブルになる。取引先とよく揉める。そのようなことが度重なると、それは先方に問題があるのでなく、こちらの従業員の側に問題があると考えざるを得ない。

 ある管理職は、そのような部下に手を焼いていると話す。

「お客との間でよく揉める部下がいるんです。つい先日も、その人物の同僚が『また彼がお客とトラブったんですよ。放置できないから仲介してお客をなだめたんですけど、なんであんなふうにいちいち揉めるんですかね。その都度、雰囲気が悪くなって困っちゃいますよ』と言うので、これは放っとけないと思って、本人に問いただしてみたんです」

 すると、とんでもない客だったといって、その経緯を説明し、「あれはクレーマーです」と強調したのだという。

 だが、その部下は特に客と揉めることが多いので、念のため、そのとき周囲にいて客と揉めているときに仲介した同僚に尋ねてみた。すると、新たな事実が判明した。

「そのお客は別に無理な要求などしていなくて、始めから自分が接客していたら要求に応えることはできたけど、もうかなり気分を害していたため、こちらの説明の途中で帰ってしまった、って言うんですよ」

 事実は、お客がクレーマーだったというわけではなく、その従業員の受け止め方に問題があった、ということのようだった。実際、そのお客は、時々やってくる人のようだったので、他にも何人かに尋ねてみたところ、誰もが「その人はそんな強引な人ではないし、クレーマーなんかじゃない」「いつも機嫌良く世間話までしていくなじみ客だ」という。

 最近はクレーマーも多いので、このようなトラブルに際しては、つい客に問題があると思ってしまいがちだが、特定の従業員にトラブルが目立つ場合は、その人物の認知能力に問題がないかに着目する必要があるだろう。