1年前、米国の司法制度はドナルド・トランプ前大統領を追い詰めているように見えた。検察当局は、負けたと分かっている選挙結果を覆そうとし、返却すべきだと知っている機密文書を手放さず、有権者の不興を買うと分かっている不倫関係を隠すためにポルノ女優に口止め料を払ったとされる大統領の完全なイメージを描き出した。米国で法の上に立つ者はいない、たとえ大統領経験者でも同じだ、と検察は主張した。だが事態は逆に転がった。トランプ氏を起訴した4件の異なる裁判が、大統領への返り咲きを目指す同氏の3度目の選挙戦を後押ししているばかりか、大統領になった場合はトランプ氏が前例のないレベルの権限を享受する道を開いた。ニューヨーク・マンハッタンの裁判所の陪審員団は5月、口止め料を巡ってトランプ氏が問われた34の罪の全てで同氏に有罪評決を下した。だが同氏が刑務所に収監される可能性は低そうだ。他の裁判は延期されており、縮小される可能性が高い。不正行為の詳細な記述によって有権者を離反させるどころか、起訴をきっかけに支持者は彼の下に結集した。