【追悼・徳田虎雄氏】「自分の後継者は身内以外に」「病院経営には“厳しさ”が必要」ALSによって全身不随の徳田虎雄氏は、透明な文字盤を介し、目の動きで意思を伝える。インタビューは2時間に及んだ Photo by Masato Kato

医療法人「徳洲会」グループの創設者で、元衆院議員の徳田虎雄氏が亡くなりました。86歳でした。追悼の意を込めて、週刊ダイヤモンド2012年6月9日号の特別レポート『日本最大の病院集団 徳洲会グループの凄みと危うさ』内の貴重なインタビュー記事をもう一度、紹介します。※全ての内容は初出時のまま(ダイヤモンド編集部)

ALSによって全身不随の徳田虎雄氏が
透明な文字盤を介して伝えた意志

──ALSを発症しても、理事長として徳洲会の経営を続けたのはなぜか。

 ALSは人工呼吸器を使えば、普通に仕事はできる。ただ動けないだけで、知恵を使う仕事には影響がない。経営を続けることに迷いはなかった。

──世界200カ国に病院を造る目標を掲げているが、本気なのか。いつまでに実現するつもりなのか。

 以前は故郷の奄美群島に病院を造ることを最優先にしてきた。奄美の医療にはめどが立ったので、次は開発途上国の医療をよくするのが使命だと思っている。そこで、200カ国の病院建設を目標としている。

 時期については設定していない。それぞれの国の事情もある。成り行き任せだ。ただし、指導者や政治家に情熱がある国、命を懸けてもやるという人がいる国から優先的に病院を造るべきだろう。

──経営困難となった自治体病院の経営を民間病院などが引き継ぐケースが増えている。徳洲会でも増えそうか。

 公立病院は「医療は金もうけではない」という口実で経営をサボり、赤字のままで放っておくから、経営が成り立たなくなる。将来、自治体も支え切れなくなるはずだ。

 日本は公立病院が多い。これらは10年後、20年後には成り立たなくなり、民営化されるだろう。そこで、徳洲会グループは基盤を固めて、地域で重要な病院を引き受ける準備をしておく必要がある。(経営基盤の強化のために)5年間で既存の30病院の建て替えを行うつもりだ。

──地方の民間病院も経営難や後継者不足が続いている。徳洲会が買収する機会は増えるのか。

 増えるはずだが、民主党政権になってから医療政策は甘くなっているので、今後3~4年は一息つく状態が続くかもしれない。民間病院の場合は、地域にとって必要性が高いかどうかで、事業継承するか否かを判断すべきだ。

──民主党政権は病院を甘やかしている?

 医療全体を甘やかしている。欧州や英国はもっと厳しくなっている。そのうち日本も欧州や英国並みに、小泉政権時代の医療政策よりも厳しくなるはずだ。

──かつて石原慎太郎・東京都知事や横山ノック・大阪府知事(当時)が都や府の公立病院の再建策について相談に来たと聞く。実際にそういう事実はあったのか。

 そういう相談はあった。(病院の運営などで)手伝いをしたかったが、徳洲会の名前を出すだけでも、(公立病院の)組合三役の気が引き締まり、役に立っただろう。

──徳洲会グループは病院経営に対する姿勢が厳しい。

 楽な経営をしては自分たちを甘やかすことになる。厳しい経営をしないと「命だけは平等だ」という医療はできない。離島・へき地、開発途上国での医療に貢献することもできない。厳しい経営を行えば、時間とお金の節約になる。離島・へき地、開発途上国の医療にも必要なノウハウだ。

──後継者については、考えているのか。身内になるのか。

 徳洲会グループの中で、しっかりした人が何人か育っているので心配はしていない。(後継者は)身内ではないだろう。それが民主的な成り行きだと思うからだ。

 後継者の条件とは、患者さんのために、医療を必死にやる人であることだ。私欲のないことがリーダーには必要だ。私欲があっては離島・へき地、開発途上国の医療はできない。私に人がついてきてくれたのも、私欲がなかったからだと思っている。