ウォール・ストリート・ジャーナル、BBC、タイムズなど各紙で絶賛されているのが『THE UNIVERSE IN A BOX 箱の中の宇宙』(アンドリュー・ポンチェン著、竹内薫訳)だ。ダークマター、銀河の誕生、ブラックホール、マルチバース…。宇宙はあまりにも広大で、最新の理論や重力波望遠鏡による観察だけでは、そのすべてを見通すことはできない。そこに現れた救世主が「シミュレーション」だ。本書では、若き天才宇宙学者がビックバンから現在まで「ぶっとんだ宇宙の全体像」を提示する。「コンピュータシミュレーションで描かれる宇宙の詳細な歴史と科学者たちの奮闘。科学の魅力を伝える圧巻の一冊野村泰紀(理論物理学者・UCバークレー教授)、「この世はシミュレーション?――コンピュータという箱の中に模擬宇宙を精密に創った研究者だからこそ語れる、生々しい最新宇宙観橋本幸士(理論物理学者・京都大学教授)、「自称世界一のヲタク少年が語る全宇宙シミュレーション。綾なす銀河の網目から生命の起源までを司る、宇宙のダークな謎に迫るスリルあふれる物語全卓樹(理論物理学者、『銀河の片隅で科学夜話』著者)と絶賛されている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。

宇宙のすべての存在の約70パーセントを占め、「あらゆる場所」で見つかり、最終的にはほぼ100パーセント「宇宙」を支配する「ダークエネルギー」とは? Photo: Adobe Stock

「ダークエネルギー」はあらゆる場所にある

 今日、宇宙を押し広げているものはすべて「ダークエネルギー」と呼ばれ、銀河を引き寄せている「ダークマター」と対をなしている。

 ダークエネルギーの影響は、太陽系や銀河系スケールでは測定可能なインパクトがないため、非常に弱いものに違いない。しかし、弱いダークエネルギーであっても、非常に大きなスケールでは重要な意味を持つ。アインシュタインはこれを「宇宙定数」と呼んだ。

 ダークエネルギーは非常に微弱で、私たちの惑星や太陽系、銀河系でも無視できるほどだが、空の空間を含む「あらゆる場所」で見つかる。

 そのため、その影響は距離とともに劇的に増幅され、全体としては物質を凌駕しているように見える。

 ダークエネルギーは、宇宙のすべての存在の約70パーセントを占めている。さらに、(ダークマターであれ、目に見えるものであれ)物質は宇宙が膨張するにつれて薄まるが、ダークエネルギーは薄まらない。

 だから、最終的には、ダークエネルギーが宇宙全体のほぼ100パーセントを占めるようになるだろう。

衰えて死んでいく星々

 現在の予測にもとづけば、今後1000億年以上にわたって、ダークエネルギーは銀河の形成を完全に止めるほど支配的になり、残った星々は衰えて死ぬだろう。

 この時点で、宇宙の規模は120億年ごとに倍増するパターンに入り、はるかに遅いとはいえ、驚くほどインフレーションを彷彿とさせる方法で膨張し続けるようになる。

 インフレーションが宇宙の始まりを決めるように、微弱だがどこにでも存在するダークエネルギーの存在が、宇宙の終わりを決めるかもしれない。まだ確証はない。

 2009年から2011年まで、私は宇宙物理学者で作家のケイティ・マックとオフィスをシェアしていた。彼女は、素晴らしいオフィスメイトであるにもかかわらず、文明の最終的な終焉に関する陽気な議論に永遠に取り憑かれているようだった。

 そして彼女は、私たちが最終的な運命について、さまざまなバージョンを研究できるように、文字どおり本を書いた。

 示唆に富んでいるとはいえ、このような非常に長期的な影響は、銀河系の中心にあるブラックホールの破壊力ほどには私から睡眠時間を奪わない。

 ダークエネルギーは、自然をより深く理解するための手がかりとして、より即効性がある。たとえば、それは、量子重力について何か教えてくれるかもしれない。

理解にはまだ遠い

 シミュレーションでダークエネルギーの可能なタイプを実験し、インフレーションによる量子ランダム性が、重力、ダークマター、ダークエネルギーとどのように相互作用し、現在私たちが見ているものを形作っているのかを理解することは、私たちが前に進むための一つの方法だ。

 現状では、ダークエネルギーが私たちに何を伝えようとしているのかを理解するにはほど遠い。

 しかし、私たちにはデジタル実験室があり、そこでもう少し理解が進むまでいじくり回すことができる。

(本原稿は、アンドリュー・ポンチェン著『THE UNIVERSE IN A BOX 箱の中の宇宙』〈竹内薫訳〉を編集、抜粋したものです)