いま人類は、AI革命、パンデミック、戦争など、すさまじい変化を目の当たりにしている。現代人は難問を乗り越えて繁栄を続けられるのか、それとも解決不可能な破綻に落ち込んでしまうのか。そんな変化の激しいいま、「世界を大局的な視点でとらえる」ためにぜひ読みたい世界的ベストセラーが上陸した。17か国で続々刊行中の『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』(デイヴィッド・ベイカー著、御立英史訳)だ。「ビッグバンから現在まで」の138億年と、さらには「現在から宇宙消滅まで」に起こることを一気に紐解く、驚くべき1冊だ。本稿では、未来を明かす衝撃的な仮説について述べた一節を本書より特別に公開する。
星が終わるとき
誕生後、何兆年も経った宇宙では、すべての銀河で新しい恒星の形成が止まり、まだ燃えて輝いているのはもっとも小さく、もっともゆっくり燃えている恒星だけになる。100兆年後には、そんな恒星の最後の一つも死滅してしまう。
この時点で、惑星上で生命を維持するのに必要なエネルギーフローはなくなり、宇宙を航行できる高度に進歩した社会でも、その複雑さを維持または増大させるのに十分なエネルギーの流れを確保することは難しくなる。それを打開する方策としては、ブラックホールが放出するエネルギーの利用があるが、恒星からのように大量に出るわけではない。
この予測に救いがあるとすれば、何兆年もの集団学習(あるいはそれに取って代わるもっと急速なプロセス)によって、複雑さが驚異的なレベルに達している可能性があることだ。(中略)
いまの宇宙はまだ若い
すべての星が燃え尽きるまで100兆年、物質の熱的死まで1兆年の1兆倍の1兆倍の1万倍という時間を考えると、現在の138億年の宇宙など、まだまだ「若い」ということになる。
地球上に生物の複雑さが存在した時間(38億年)はさらにわずかであり、人類が文字を発明して国や社会を形成した時間(5500年)はさらにごくわずかだ。そして、集団学習と科学が圧倒的な加速度で進歩したのは、過去わずか200年のことにすぎない。
200年など、このさき宇宙が存在しつづける時間に比べれば、無視できるほど短い。小数点以下のゼロの個数を考えると、パーセンテージで表す価値すらない。
複雑さが現在のようなペースで加速度的に増大していけば、数十億年とか数兆年などではなく、数万年とか数千年のうちに、高度な社会が宇宙の「自然な未来」に影響を与えはじめる可能性がある。複雑さが増しつづければ、その可能性は「起こりうる未来」、さらに「現状延長の未来」にさえなっていくだろう。
しかし、そのような高度な複雑さがどんなものになるかを予測することはほぼ不可能である。10年後の技術を推測することさえ難しい人間に、何千年や何万年というタイムスケールで、未来のテクノロジーの姿を推測することはできない。
複雑な「超文明」にいつ達するのか?
だが、そのような超文明にいつ到達するか、それがどれほど複雑で強力なものかを知る方法ならある。
ここまでに何度か、複雑さを表す指標として、複雑さを生み出し、維持し、増大させるエネルギーフローについて述べた。太陽は2erg/g/s、光合成を行う平均的な生物は900erg/g/s、イヌは2万erg/g/s、狩猟採集社会は4万erg/g/s、農業国家は10万erg/g/s、19世紀の産業社会は50万erg/g/s、そして現代社会は200万erg/g/sである。
このような定量的な指標を用いることで、超未来における超文明の複雑さを予測し、そこに到達するまでの時間を推定することができるのである。
エネルギーフローの増大とともに、システムの構造は複雑になっていく。すなわち、水素原子からDNAを持つ単細胞へ、次は何兆個もの細胞からなる多細胞生物へ、そして人間や家畜やあらゆる機械がつながった社会ネットワークへと複雑化していく。
さらに、流入するエネルギー密度が高まるにつれて、人間は生きのびるために、物理法則を操作し、環境を変えようとしはじめる。
現在の私たちには、そのような超文明でどのような科学や奇跡的発明が生まれるのか知る由もないが、ここまで観察してきたトレンドから、高度な複雑さがもたらす進歩は銀河の構造や宇宙論的進化そのものにも影響をおよぼす可能性があることがうかがえる。
(本稿は、デイヴィッド・ベイカー著『早回し全歴史──宇宙誕生から今の世界まで一気にわかる』からの抜粋です)