2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材（起業参謀）の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。
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その市場に支配的なプレーヤーは存在するか？
その市場に支配的なプレーヤーがいるかどうかは、その市場の魅力度を決める重要なポイントである。当然ながら、支配的なプレーヤーの存在は参入障壁になるからだ。ネットワーク効果（そのサービスを利用する人が増えれば増えるほど、利用者の利便性が高まること）が利いてくるようなビジネスモデルなら、支配的なプレーヤーはすでに、市場を「面」で押さえている可能性が高く、参入は難しくなる。
たとえば、今から、中古車販売のマーケットプレイスを始めようとしても、カーセンサーやグーネットなどが多くの出品者や、カーディーラーを押さえており、ユーザーの第一想起も取られてしまっている。結果、参入するのは厳しい市場だろう。
とはいえ、たとえ支配的なプレーヤーがいたとしてもチャンスがないわけではない。前述したメルカリvs.ヤフオク！のケースのように、新しいプラットフォーム上でのUX（顧客体験）が良くなかった場合には、入り込むチャンスがある。
また、支配的なプレーヤーの影響で、寡占市場となり、値段／手数料が不用意に高かったり、進化が止まっていたりするケースもある。その場合にも、入り込み、新たな価値を提供して一気に市場を独占できる可能性がある。
世界の低所得層14億人を対象にしたビジネスに参入
たとえば、車などモビリティを所有できないため仕事に就けない世界の低所得層14億人を対象にフィンテックサービスをグローバルに提供するGlobal Mobility Service（GMS）という日本のスタートアップがある。この市場には、UberやGrabがすでに入り込んでいたが、同社は既存のプレーヤーよりも安い手数料を提供することで、結果として利用者（ドライバー）の還元率を高め市場シェアを獲得した。
以前、セブン銀行の例を紹介したが、2010年代半ばには、様々なフィンテック企業が登場した。それまでは銀行が規制に守られており、さらにUXは非常に悪かった。当然、既存の銀行は、多くの顧客を抱えていたが、スマホやデジタルを活用したUXを提供するフィンテックスタートアップが市場に参入し、業界を活性化したのだ。
たとえば、マネーフォワードは、銀行の資産管理サービスのUXが非常に悪かったところに便利な家計簿アプリを提供することで、サービスを一気に伸ばした好例だろう。
目の前にいる支配的なプレーヤーは確かに屈強かもしれない。しかし、このプレーヤーは現在の市場に最適化しているため、未来においては顧客ニーズとのズレが生じるかもしれない。こうしたところにチャンスの芽はあるといえる。
（※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです）
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック（教育技術）のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』（以上、日経BP）、『起業大全』（ダイヤモンド社）、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』（光文社新書）、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』（朝日新聞出版）などがある。
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【目次】
はじめに なぜ、起業参謀が必要なのか？
第一部 起業参謀の概念、思考法やプロセス編
第1章 起業参謀の価値とは
第2章 最大成果を上げる要諦とプロセス
第3章 起業参謀に必要な5つのケイパビリティ
第二部 起業参謀として活躍するために必要な「5つの眼」のフレームワーク編
第4章 PFMFを目指すための「鳥の眼」を身につけるフレームワーク
第5章 変化し続ける顧客心理を捉えるための「虫の眼」を身につけるフレームワーク
第6章 勝ち続ける仕組みを作るための「魚の眼」を身につけるフレームワーク
第7章 メタ認知力を高めるための「医者の眼」を身につけるフレームワーク
第8章 圧倒的行動量を引き出すための「人（伴走者）の眼」を身につけるフレームワーク
おわりに 起業参謀がスタートアップの道を照らす
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