一握りの超富裕層だけが入居する、閉ざされた「終の棲家」。元首相も入居していると言われる“超高級老人ホーム”が、近年注目を集めている。これらを徹底取材したのが、ノンフィクションライター甚野博則氏による『ルポ 超高級老人ホーム』だ。本記事では、発売前から話題となっている本書の出版を記念して、内容の一部を抜粋し再編集してお届けする。

【入居金4億円超えも】超高級老人ホームの老舗「サクラビア成城」、そのすごすぎる実態現役世代はジリ貧なのだが……(Photo: Adobe Stock)

超高級老人ホームの日本代表
「サクラビア成城」

 入居一時金の最高額が約4億7千万円――​。

 東京・世田谷区にある「サクラビア成城」は、全国屈指の超高級老人ホームとしてその名が知られている。入居一時金がこれほど高い老人ホームは全国的に見ても非常に少ない。

 サクラビア成城の開業は1988年。日本がバブル景気に沸いていた頃だ。当時は「シルバー億ション」などと呼ばれ、その価格の高さと設備の豪華さがメディアでも話題になっていた。

「ここにご入居されている方は、オーナー経営者の方が多いですね」

 そう話すのはサクラビア成城の運営会社で取締役を務める松平健介氏(仮名)だ。短くまとめた髪型にパリッとした紺色のスーツを纏った姿は、老舗ホテルの支配人のような印象である。

5億円程度は
自由に使えるのが大前提

 取材場所となったスカイラウンジのある10階には高額な部屋が並んでいた。最も入居金が高い部屋は夫婦二人で入居の場合、約147平米で約4億7千万円だ。これに二人で1日三食を付け、電気代を除く諸経費を含めると月額約60万円かかるという。

「100平米超えの大きなお部屋を希望される方が多いのですが、そうなると入居一時金が3億円を超えます。このため、5億円くらいのお金を自由に使える方が入られています」(松平氏)

 高すぎる。そう思ったが、ここには庶民感覚など存在しないのだろう。

「もちろん全財産をいていらっしゃるわけではありませんので、自宅は置かれたままここに入られる。相当アッパーな方でないと、なかなかご入居できないかと思います」(松平氏)

高級老人ホームでの暮らしは幸せか?

 お客様相談室の石塚幸一氏(仮名)が、標準的な居室である約68平米のモデルルームに案内してくれた。

 入居一時金が約1億5千万円以上のこの居室は、リビングに加えベッドルームがあり、二人で暮らしても十分な広さがある。

 キッチンはコンパクトな設計だ。館内にレストランがあるため、室内で頻繁に料理を作ることを想定していないからである。

 また、一定時間人が通らないと異常を知らせてくれる生活リズムセンサーも標準で装備されている。独居の居住者が室内で倒れていても、すぐに発見できるというわけだ。清掃は月に2回で、管理費に含まれているという。

「入居一時金はお一人ですと約1億4千700万円、お二人で暮らすと約1億6千万円です。入居一時金は15年かけて償却しますので、仮に一名でご入居の場合、5年で退去されると、約8340万円を返金します。また15年以上が経過した場合は、入居一時金のお返しはありませんが、月次の費用だけで生活ができます」(石塚氏)

 ただし、途中で亡くなった者を除いて、15年未満で退去する者はほとんどいないという。

 この施設に不満がないという意味か、それとも高齢になると生活の変化を避け現状を変えようとしないからなのか。

 高額な入居一時金を支払って転居した富裕層の高齢者の気持ちを考えるとどちらの理由もあるだろうと思った。

 果たして、高級な施設で最期を迎える超富裕層の高齢者は幸せなのだろうか――。

(本記事は、『ルポ 超高級老人ホーム』の内容を抜粋・再編集したものです)

甚野博則(じんの・ひろのり)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)がある。