一握りの超富裕層だけが入居する、閉ざされた「終の棲家」……。元首相も入居していると言われる“超高級老人ホーム”が、近年注目を集めている。これらを徹底取材したのが、ノンフィクションライター甚野博則氏による『ルポ 超高級老人ホーム』だ。本記事では、発売前から話題となっている本書の出版を記念して、内容の一部を抜粋し再編集してお届けする。

【スクープ】入居金6億円超え、日本を代表する超高級老人ホームはサービス終了へ。セレブ老人たちの末路とは?日本を代表する高級老人ホームに、まさかの事実が判明した(Photo: Adobe Stock)

終焉までのカウントダウンが始まる
「聖路加レジデンス」

 超高級老人ホームの代表格の一つとして名高いのが「聖路加レジデンス」だ。

「取材は一切お受けしておりません」

 本書の執筆にあたって、聖路加レジデンスにも取材依頼の電話をかけたのだが、取り付く島もなく拒否された。

 聖路加レジデンスはメディアの取材を受けたがらないことは、これまでの取材で既に関係者から聞いており、予想通りの展開だ。

 東京都中央区にあるこの施設は、日本初の予防医療型ケア付きのシニアマンションとしても知られる。過去の新聞記事を調べてみると、1994年に第1期分が完売したことが話題になっていた。

 94年といえば、6月にオウム真理教による松本サリン事件が発生し、同月には村山富市内閣も発足。バブルの象徴でもあったジュリアナ東京が閉店した年でもある。

 そうした時代の転換期に聖路加レジデンスは、1億4800万円から4億8600万円の間で販売されていたのだ。

「ここは法人契約ができますので、中小企業の社長などが、隣接する聖路加国際病院を受診するときや、人間ドックに合わせてホテル代わりに利用していると聞きます」(介護施設関係者)

 現在、ホームページを見ると、入居金総額の例として、一人入居の場合で2億1650万円から6億8925万円と記されている。

 企業のオーナーや幹部を始め、元自治大臣や鳩山由紀夫元首相の母が入居していたことでも知られている。

 だが、別の関係者が意外な事実を明かす。

聖路加レジデンスですが、2044年3月には施設を終了する予定です。聖路加国際病院から土地を借りて運営していたようなのですが、その契約を更新しないと決めたとのこと。それ以降についてはまだ決まっていないようです。ただ、現在でも満室状態が続いているんだからすごいブランド力ですよね」

 聖路加レジデンスに限らず、超高級志向のこうした施設に共通しているのは、空室待ちの客が多いということだろう。

 ある有名施設の担当者は、内情をこう話す。

「中堅クラスの施設では、高額な入居一時金をホームページに掲げているものの、実際には値引きに応じるなどして入居者を集めています。一方、高級な施設で値引きはありません。知人の紹介や、付き合いのある銀行の紹介で入居者が集まる。質のいい入居者を紹介してくれた銀行には契約金の数パーセントをバックしている施設もあると聞きます

 こうして富裕層たちは、表には出ない独自のルートを使って、ステータスの高い施設に入居しようと試みているのだ。

高級老人ホームに入居するオーナー
薄給で働く現役社員

 こうした超高級老人ホームでは中小企業のオーナーたちが多く入居する。その企業を支える社員たちは、彼らをどう見ているのだろうか。

 ある会合で偶然出会った中小企業の社員が、私にこう漏らしたことがある。

「うちの会長も、高級老人ホームに入ってますよ」

 飲食店を切り盛りするその社員は、吐き捨てるようにこう続けた。

「会長は、高級老人ホームの暮らしは退屈だとか周囲に触れ回っていますが、正直ムカつきます。低賃金で働らかされている我々のことより、自分のことばかりです。ふざけんじゃねえって感じですよ」

 ただ、高級老人ホームで暮らす企業オーナーたちが、こうした社員の心の中までは知る由もないだろう。

 そうした成功者たちが人生最期の城として選んだ超高級志向の老人ホーム。

 その門をくぐってみると、老後を豊かに謳歌していると語るシニアたちの姿があった。ある人は恋が芽生え、またある人は家族との絆を再認識したという。

 彼らにとって自由で贅沢な住環境は、まさに最高のステータスに違いない。

 だが、果たして彼らの心は満たされているのだろうか――。

(本記事は、『ルポ 超高級老人ホーム』の内容を抜粋・再編集したものです)

甚野博則(じんの・ひろのり)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)がある。