『失敗の本質』が注目される理由
日本人と日本的組織、5つの弱点

 では、なぜ今、『失敗の本質』が注目されているのでしょうか?

 その理由は約70年前に日本軍が敗北した大東亜戦争末期と、現在の日本が直面する問題、日本的組織の病状があまりにも似ているからでしょう。多くの日本人が、その不気味な類似点に驚き、不安さえ感じているのではないでしょうか。

 以下、大東亜戦争末期の日本軍と現代日本に共通する5つの弱点を挙げてみましょう。

(1)あいまいな目的、さらに失敗を方向転換できず破綻する組織

 ソ連との国境紛争だったノモンハン事件、ガダルカナル島での戦い、インパール作戦など、日本では戦略目的があいまいなままに戦闘が開始されています。その上、明らかに作戦が失敗しているにもかかわらず、戦力をさらにつぎ込んで、悲劇を拡大しています。

 日本軍では目的があいまいなままで「組織内の空気」によって作戦が決定されていきました。そのような非合理な決定が破綻したあとも容易に停止できず、本来チェック機構を有しているはずの組織原理もほとんど機能しませんでした。「だれも過ちを止められないまま」、悲劇的な破綻まで突き進んでしまったのです。

(2)上から下へと「一方通行」の権威主義

 どれだけ現場最前線の士気と能力が高くても、戦略や作戦を決める上層部が愚かな判断を続ければ敗北します。上層部が現場の声をまったく活かすことなく失敗を繰り返す姿は、日本軍と現代日本の組織にも共通しています。

(3)リスク管理ができず、人災として被害を拡大させる

 企業の不祥事の多くは「問題の芽を放置した」ことで悲劇を迎えます。日本海軍の戦闘機「零戦」には防弾装備がなく、空母も被弾するとすぐに炎上してしまいました。あの時代も現代も、日本人のリスク管理思想には重大な欠陥があるのではないでしょうか。

(4)現実を直視せず、正しい情報が組織全体に伝達されず悲劇を拡大する

 ノモンハン事件やインパール作戦では、緒戦の大失敗が組織全体に伝達されず、ある種の隠ぺいによって戦況がわからないままに当初の決断が継続されています。その結果、正しい情報が組織全体に伝達・共有されず、実際の状況がわからないままに作戦が継続され、問題への対策や処置が行なわれずに悲劇を急拡大させました。日本軍では、不都合な問題がこれ以上隠せず、被害の大きさが許容できないレベルになってやっと発覚して、組織に挽回不可能なダメージを与えたのです。

(5)問題の枠組みを新しい視点から理解できない

 震災後の2012年に大幅赤字を発表したシャープは、昨年に台湾企業に買収されています。2016年10月には三菱自動車が日産から出資を受け、日産・ルノーアライアンスの一員となることが発表されました。世界的な半導体メーカー同士の競争でも、日本企業は厳しい戦いを強いられています。

 日本企業は「高い技術力では負けていない」と言われますが、業績上の敗北は明白です。「技術以外の要素」が勝利に必要なのに、高い技術のみを誇る価値があるのでしょうか。日本軍の世界最大の戦艦「大和」は米軍航空機に撃沈されました。すでに戦艦の巨大さが勝利の要因ではなくなったことに気づけなかったのです。