難解な『失敗の本質』を
読み解く7つの視点
名著『失敗の本質』をわかりやすいエッセンスとして読み解くためには、以下の7つの視点を使うと、急速に理解が進みます。
(1)「戦略性」
日本人が考えている「戦略性」と米軍が考えた「戦略性」には違いがあります。米軍は一つの作戦、勝利が最終目標の達成につながる効果を発揮したのに対して、日本軍は目の前の戦闘に終始して最終目標の達成に近づくことができませんでした。
(2)「思考法」
大東亜戦争にも現代ビジネスにも共通する「日本人特有の思考法」の存在。練磨と改善には強く、大きな変化や革新が苦手で柔軟な対応ができない。日本海軍の名戦闘機「零戦」は部品1点にも軽量化の工夫が随所に凝らされた、改善努力の結晶でした。しかし、防弾装備を省いてまで実現した軽さが、米軍の進化で空戦の優位を失った時、日本軍は方向転換をする決断ができず、撃墜され続ける状況を変えられませんでした。
(3)「イノベーション」
既存のルールの習熟を目指す日本人の気質は、大きな変化を伴うイノベーションが苦手だと言われています。その気質や思考法がイノベーションを阻害するだけではなく、日本独特の組織の論理が過去の延長線上を好み、変化の芽を潰す傾向があるのもまた事実でしょう。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが日本から生まれない理由は、個人の思考法だけではなく、組織の歪んだ論理にもあるはずです。
(4)「型の伝承」
実は創造ではなく「方法」に依存する日本人。私たちの組織文化の中にある型の伝承という思想が、イノベーションの目を潰す悪影響を生んでいる可能性も高いのです。日露戦争で勝利した日本軍は、その戦闘方法を「型として伝承」し学習させたため、大東亜戦争では時代遅れの戦術に固執することになり、戦局の変化に対して新しい創造ができませんでした。
成功を生み出した真の因果関係を探るのではなく、成功した時の「行動」を繰り返して追い込まれていく姿は、ビジネスにおける国際競争で劣勢を挽回できない日本企業に重なります。
(5)「組織運営」
日本軍の上層部は、現場活用が徹底的に下手でした。組織の中央部と現場は緊密さに欠け、権威で現場の柔軟性を押さえ付けました。その結果、硬直的な意思決定を繰り返して敗北したのです。
上層部が頭の中でだけ組み立てた作戦は、現地最前線の過酷な現実の前に簡単に打ち砕かれていきます。一方で、最前線には、戦場の実情を正確に見抜いていた優秀な日本軍人もいたにもかかわらず、活用する能力がまったく欠けているのは、現代日本と日本軍にまさに共通の欠陥です。
(6)「リーダーシップ」
現実を直視しつつ、優れた判断が常に求められる戦場。環境変化を乗り越えて勝つリーダーは、新しく有効な戦略を見つけることが上手く、負けるリーダーは有効性を失った戦略に固執して敗北を重ねます。組織内にいる、勝つ能力を持つ人物を抜擢できることも、優れたリーダーの資質です。組織人事の優劣は、危機を突破して勝利するか、打開策を見つけられずに敗北するかの大差を生み出す要素なのです。
(7)「日本的メンタリティ」
「空気」の存在や、厳しい現実から目を背ける危険な思考への集団感染は、日本軍が悲惨な敗北へと突き進んだ要因の一つと言われます。そして、被害を劇的に増幅する「リスク管理の誤解」は、現代日本でも頻繁に起こっていることですので、皆さんもよく理解されていると思います。
リスクを隠し過小評価することで被害を増大させる日本軍と、リスクを積極的に探り出して徹底周知させて対策を講じる米軍では、時間の経過で戦闘力に大きな差が生まれたのは当然ではないでしょうか。
ここに挙げた7つの視点は、私たち現代日本が今こそ深く理解すべき課題だと感じます。同じ失敗を繰り返して反省する日本の姿にうんざりしている読者の方も多いはず。失敗を再発させず、新たな勝利を掴むための英知が求められているのです。
『失敗の本質』を7つの視点で読み解くことは、名著の新たな学習方法のススメでもあります。今、私たちに最も必要な学びを効率的に進めてはいかがでしょうか。詳しい読み解き方については、拙著『「超」入門 失敗の本質』をお読みいただければ幸いです。