私たち現代日本人が、
『失敗の本質』を読むべき3つの理由

 私たちが現在『失敗の本質』を読むべき理由はいくつも挙げることができますが、特に大きな理由を以下に3つ記載します。

(1)巨大組織の不合理な決断と破綻、日本的組織原理の欠点への不満

 戦闘員、民間人を含めて300万人以上の日本人が亡くなった大東亜戦争。開戦から1年以降は、転げ落ちるように敗北を重ねて悲惨な結末を迎えました。その当時の日本軍は、国内で最大の組織だったと言われています。そこには日本の頭脳とも言うべきエリートたちが集まっていたにもかかわらず、不合理と悲劇はどんどんと加速していったのです。

 とても残念なことですが、現代の巨大組織の不祥事、意思決定の曖昧さ、タテ割り組織の弊害、都合の悪い情報を隠ぺいする行為など、『失敗の本質』で指摘された旧日本軍の悪弊とほとんど同じだと多くの日本人が感じています。

 戦後72年を経た今こそ、日本は過去の弱点を克服し、同じ失敗から卒業すべきなのに、かえって「何も変わっていない」と暗澹たる気持ちにさせられる現実が目の前にあるのです。旧日本軍と現代組織の共通するジレンマを知ることは、現在への不満と、新たな突破口を探す圧力の強さを意味しているのではないでしょうか。

(2)大震災と原発事故が教えた日本的なリスク管理の危険性

 コンティンジェンシー・プラン(万一の事態に備えた計画)が不在であることは日本軍と現代日本組織に共通する大きな欠陥です。変化の激しい時代に、適切なリスク管理ができないことは、今後さらなる危険を生み出すことにつながります。「想定外」という言葉が、不適切なリスク管理の免罪符となる状況は、そろそろ終わりにすべきではないでしょうか。

 廃炉まで30年、あるいはそれ以上かかる可能性も指摘され始めた福島第一原発の現状は、日本的なリスク管理やリスク対処法が、実は危機的な事態にはほとんど機能しないという、残念極まる現実を私たちに突きつけています。日本的なリスク管理の誤りを、より多くの人が認識するために『失敗の本質』は、多くの教訓を含んでおり、新たな悲劇を生まないために学ぶべき要素があると思われるのです。

(3)日本企業の劣勢、突破口が見えない閉塞感の時代

 過去に世界市場を席巻した日本企業が、苦戦・敗北をしています。しかし、日本企業も日本人も努力を怠っているわけでは決してありません。だからこそ、既存の戦術に固執して無残に敗北した、日本軍と同じ失敗を疑う必要があるのです。

 以下は『失敗の本質』で紹介された2つの概念です。

シングル・ループ学習 = 問題の構造が固定的だと考えること
ダブル・ループ学習  = 問題の構造は変化することもあると考えること

(例)前者は「高い技術」のみがビジネス唯一の成功要因だと盲信すること。
(例)後者は「技術」以外にもビジネスの成功要因があると考えることです。

 昨年には米アマゾンがコンビニ事業へ進出するとのニュースが伝わりました。さらには今後、アマゾンは生鮮食品事業にも参入する可能性があると言われています。世界の最先端企業は、これまでにない発想でビジネス領域を拡大する一方、日本企業の多くは閉塞感を抱えたまま、過去のビジネスモデルから脱却できない現実があります。これをどう打破するか、あらゆる日本企業に共通の課題がここにもあるのです。