AIやロボットが準備した
パンや花束も悪くはないが・・・

「パン屋さん」「お花屋さん」になりたい子どもが、ビジネスで“将来有望”と言えるワケ10年後のハローワーク』(川村秀憲 著、アスコム、税込1650円)

 まず、フェイス・トゥ・フェイスが前提である小さなビジネスには、とくにそこに「身体性」が伴っているとなお、AIやロボットに代替される可能性は低くなります。

 たとえば美容師やマッサージ師の仕事を、AIを搭載したロボットに代替させること自体は可能でしょうが、では顧客は、著しくコストが安くなっているならまだしも、似たような価格ではたして進んでAIやロボットに施術されることを好むでしょうか。最初は物珍しさから試す人もいるかもしれませんが、やはり人に戻ってくるのではないかと思います。

 この背景を考えてみると、結局、小さなビジネスや身体性の強いサービスは、供給してくれる「人」自体にも大きな価値があるからなのではないかと思います。

 美容師さんに髪型を相談しながらカットしてもらったり、パーマをかけてもらったりすることには、それ自体に魅力や満足感があります。一方で、あれこれ話しかけられるのがいやで、無言で切られたい人にはいわゆる「1000円カット」などの業態があり、これは場合によっては将来ロボットになるのかもしれません。

「パン屋さん」「お花屋さん」になりたい子どもが、ビジネスで“将来有望”と言えるワケ出典:『10年後のハローワーク』(川村秀憲 著/アスコム)

 パン屋さん、ケーキ屋さん、お花屋さんも同じでしょう。AIやロボットが正確かつきれいに焼いたパン、AIがおすすめしてくれる花束も悪くはありませんが、すでにうまく商売をしている人たちは、やはり自分のセンスや味に魅力を感じてくれているリピーターが存在しているからこそなのではないでしょうか。

 もっとも、こうした小さなサービス業の主人も、自分の「助手」としてAIを取り入れることは大いにあり得るでしょう。顧客の顔や髪型を撮影して分析すること、最近流行のスタイルを試しに適用してみることなど、いままでとは違った価値が提供できる機会はありそうです。

 ただそれでも、やはり最後は人の手になるでしょう。よく知っている人に任せることへの安心感、信頼感には、それ自体に価値が存在するからです。

 そして、忘れてはならないのは、こうした小さい単位の「お店屋さん」も、あくまで経営者である点です。彼らは決して言われたまま動いているわけではなく、どこに出店し、いくらの値段をつけ、どんなことにコストをかけ、何を勉強し、誰を顧客として大切にするかなど、すべてにおいて自ら「意思決定」している主体なのです。

 私はむしろここに、AI時代に残る「働く価値」のわかりやすい姿があるのではないかと思うのです。