まわりの同期がどんどん出世していく中、自分だけ出遅れている。自分はいつになったらやりたい仕事で成果を出せるようになるのだろう? 徐々に開いていく実力の差に、焦っている人も多いだろう。
キャリアの壁にぶつかり、不安になったときに読んでもらいたいのが『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』だ。フリーライターとして約30年の経験を持ち、これまで3000人以上の著名人にインタビューをしてきた上阪徹氏。大企業の社長や起業家、俳優、作家など、いわゆる社会的に成功した人に取材する中で、「どうして、この会社に入られたのですか?」「どうして、この仕事を選んだのですか?」とたずねてきたという。一流のビジネスパーソンたちが「成功する前の下積み時代をどう過ごしていたのか」が、具体的なエピソードとともに解説されている本書。
今回は、そんな本書のエッセンスをご紹介する。(文/川代紗生、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

彼らが成功する前に大切にしていたことPhoto: Adobe Stock

「トップ社員」が高いモチベーションを維持できるワケ

「出世する人」と「出世しない人」には、どんな違いがあるのだろうか。

 自分はこのままここで働いていていいのだろうか。出世できないなら今の職場で時間をムダにするより、新しい環境にチャレンジしたほうがいいのでは……。

 組織で働く人なら一度は考えたことがあるだろう問いだ。

 私も最近、仕事選びで迷うことがあった。自分でも想像していなかったような仕事の依頼が続いたり、反対に、「これをやりたい」と思っていたことが向いていなかったりと、予想外のことが増えたのだ。

 さて、これからのキャリア選びに迷ったとき、何を基準に決めたらよいのだろう。

 これにヒントを投げかけてくれたのが、本書だった。

 著者の上阪氏は、さまざまな大企業、世界的企業の社長にインタビューしたが、実は就活に失敗していた人が少なくなかったという。

 また、人事コンサルティング会社のマーサージャパンの元社長、柴田励司さんにインタビューしたところ、企業で結果を出す人に共通する要素を聞いたそうだ。

次世代リーダーの育成モデルを探っていて、いろんな会社で同期トップを走っている社員にインタビューをしたことがあったそうです。そうすると、早く抜擢される人には共通項があった。 
その第一が、第一志望で入社していないこと、だったというのです。(P.208)

 意外な共通項だが、目標を達成できなかった、という焦りや挫折が、結果としてキャリアアップにつながったのではないか、と本書では考察されている。「第一志望ではない会社だったからこそ、生まれる気概があった」と柴田さんは話していたそうだ。

 2つめの共通項は、「若いうちに修羅場を経験していたこと」だ。

 たとえば、会社で一番きついチームに配属された、トラブル続きの現場でバタバタした毎日を送っていたなど、ハードな経験をしていることだという。

NHK在職時、誰もやりたがらない仕事を率先して希望していたと語っていたジャーナリストの池上彰さん。苦労の多い通信部に手を挙げたり、同僚の多くが避けたがった警視庁担当を2年間務めたり。(中略)
大晦日も正月もない。深夜の呼び出し。遺体もたくさん見た。地獄のような2年間だったそうですが、一度、地獄を見ると、世の中に辛い仕事はなくなったと語っていました。(P.213)

 池上さんだけではない。さまざまな企業の社長、一流のビジネスパーソンの多くが、このようなきつい経験をしているのである。

「修羅場を経験してきた人」だけが持つ強さ

「第一志望で入社していないこと」と「若いうちに修羅場を経験していたこと」。

 同期トップで出世する人には、この2つの共通項があったというのは、面白い発見だった。

 本書を読了して私が思ったのは、「ゼロをプラスにしたい」よりも「マイナスをゼロにしたい」という欲求のほうが、案外、目標達成するためのモチベーションとして機能しやすいのではないか、ということだ。

 もともとこうなるはずだったことが、うまくいかなかった。予想外のことが起きた。

 そういう「マイナス」が発生したときに、なんとかもとに戻さなきゃと全力で動いているうちに、気がついたら、思っていたよりも面白い場所にいた、ということはよくある。

 たとえば私も、仕事に一番がむしゃらになれたのは、「同年代のビジネスパーソンよりも遅れている」という焦りが出たときだった。

「こういう結果を出した」「今はこういうポジションについている」という友人の話を聞き、自分だって本当はもっとこういう仕事をしてるはずなのに! と劣等感を抱き、その劣等感が気がつけば、自分という車を動かすガソリンになっていた。

「思い通りにいかない人生」を乗りこなせ

 人生とは思い通りにいかないものだ。

「これを達成したい」という目標を立てていても、決めていた通りの水準までスキルアップできなかったり、世の中の風潮に合わなかったりと、コントロールできないことはその都度起きる。

 その思い通りにいかない状況・環境がやってきたとき、成功者たちはどう乗りこなしてきたのかが、本書では列挙されている。

 著者・上阪氏自身も、新卒の就活は失敗し、転職した会社でも結果を出せず、2度目の転職先は倒産。

 予想外のトラブルの連続だったものの、やりたいことを捨て、偶然に身を任せてフリーランスになってみたところ、たくさんのチャンスが巡ってくるようになったという。

たくさんの成功者が口を揃えて言ったこと

 成功した人は皆、事細かに計画を立て、それを着実にクリアしてきたと思われがちだが、それだけが成功のルートではない。

 第一志望ではない会社に入社していたり、思いがけない修羅場に巻き込まれたり、さんざんな目に合っていることもある。

 それでもそういう偶然の展開を受け入れ、新しい流れにのってみることも一つの手だと、上阪氏は語る。

たくさんの成功者、うまくいっている人に会い、最も強烈に教わったことといえば、「目の前のことにしっかり向き合う」ことの大切さだったように思います。(中略)
大事なことは、五感を研ぎ澄ませておくことです。偶然やチャンスに反応できる感覚を磨いておくこと。時には、向かうべき選択を決断できる直感を養っておくこと。(中略)
偶然をつかまえる力を備えておくことです。(P.223-226)

「こんなはずじゃなかった」という展開がやってきたとき、コントロールできない試練の波に足をとられたとき、「出世する人の条件が、自分のところにもやってきたか」と、楽しむくらいがちょうどいいのかもしれない。